編集者 萩原朋子さん(家の光編集部)と
中綾子さん(ちゃぐりん編集部)×花田店主 松井英輔
MOAS Kids1周年企画
子どもの世界をめぐる Let’s connect the dots
第1話・・・「食育は体の栄養、木育は心の栄養」10/19更新
第2話・・・「おもちゃは、楽しむための生活道具」10/20更新
with 東京おもちゃ美術館館長 多田千尋氏
第3話・・・「林さんのうつわに、みんなが微笑む理由」10/21更新
with うつわ作家 林京子さんご夫妻
第4話・・・「明るい気持ちになるうつわ」10/22更新
with うつわ作家 村田菜穂美さん
第5話・・・「食べる力は、生きる力」
with 編集者 萩原朋子さん(家の光編集部)と中綾子さん(ちゃぐりん編集部)
2014年より本格的に子どものうつわ作りを始めた花田の新シリーズ「MOAS Kids モアスキッズ」
1周年を迎え、さまざまな取り組みから子どもたちと接する皆さんとのトーク企画を実現しました。
子どもをとりまく、日々の食卓、遊びの場、学びの機会・・・いろいろな話題を通して感じた
心温まるやさしい気持ち、明るく楽しい気持ち、考えたこと、未来への前向きな気持ち・・・
それら皆さんとの交流を、シリーズでお届けいたします。
一緒に会話を楽しむような気分で、お読み頂けたら幸いです。
ご紹介
JA(農協)グループの出版・文化団体である、(一社)家の光協会
から発刊されている家庭雑誌『家の光』は、農業・農村文化の向上を
目指した記事を発信し続け、今年で創刊90周年を迎えました。
その『家の光』から生まれた子ども向けの雑誌『ちゃぐりん』は、
食農教育をすすめる雑誌として日本PTA全国協議会の推薦を得て、
多くの学校の図書館にも置かれています。
食や農について毎回さまざまな切り口から特集されるページは興味深く、大人も多くを学ぶことができる読みごたえのある本です。
今回は萩原朋子さん(家の光編集部)と中綾子さん(ちゃぐりん編集部)のお二人に、食と農、そして子どもに関わる雑誌に携われてきた観点から、改めて、子どもと食と家庭の役割などについてお話を伺いました。
家の光 http://www.ienohikari.net/press/hikari/
ちゃぐりん http://www.ienohikari.net/press/chagurin/
MOAS Kids1周年企画
子どもの世界をめぐる Let’s connect the dots
第5話・・・「食べる力は、生きる力」
with 編集者 萩原朋子さん(家の光編集部)と中綾子さん(ちゃぐりん編集部)
『ちゃぐりん』誕生、そして今
花田: 『ちゃぐりん』は創刊から52年経つのですね。
キテレツ大百科も『ちゃぐりん』から生まれたって聞いてびっくりしました。(以下 花田-)
中: キテレツ大百科、萩原さんの時でしたっけ。
萩原: 『ちゃぐりん』の前身、『こどもの光』のとき、
昭和49(1974)年4月号から約3年間の連載だから、
わたしが家の光協会に就職する前よ。わたし、そこまで古くないわ(笑)。
中: 昭和39(1964)年8月号創刊『こども家の光』が 11月号に誌名が『こどもの光』になって、『ちゃぐりん』になったのは平成5(1993)年の8月号からです。
萩原: 誌名は読者から募集しました。
たくさんの候補の中から選ばれたんです。
中: それで『ちゃぐりん』が生まれました。
-: 可愛い名前ですよね。誰かの名前にも聞こえるし。
萩原: 当初はよく誌名を間違えられました。『茶グリーン』とか
『ちゃんぐり』、「チャグリング」なんていうのも(笑)。
-: ちゃぐりんの表紙は毎月、野菜を使ったものですね。
表紙はずっと野菜ですか。
萩原: イラストのときもあったし、モデルさんのときも。 野菜ってこうやってみると、本当、色がきれいですね。 なにひとつ着色していないし。
-: 思っている以上に様々な色がありますね。緑でも色々ですね。
パッと見以上に多種類の野菜が使われている。
萩原: そうそう、昨年、この表紙を撮影している家の光の写真部員が、
日本雑誌写真記者会賞の静物部門に表紙を応募して、雑誌協会から表彰を受けたんですよ。
中: 一昨年は、野菜で世界遺産を作っていたんですよ。
「イースター島のモアイ象」など、大きいものを作っていました。
制作者はイラストレーターのサカタルージさん。
いつも朝から夜遅くまで、その日のうちに制作から撮影までを行います。作っているうちに野菜の色も変わるので、削りなおしたりもされていて、毎号、担当者とカメラマンと3人で、熱のこもった制作をしています。
萩原: 食材の入手を考えて、表紙は一年前に撮るって聞いたけど。
-: そうすると、これは一年前。
中: そうです。その野菜が旬を迎える時季に撮影に使うように
しています。無理にシーズンはずれのものを使うことはしません。
萩原: 日本の農業を大事にするというのが我々のスタンスなので。
-: 何月号かで、動物の足にトマトのヘタを使うなど、
細かい部分まで見ごたえありますね。
中: 『ちゃぐりん』は読者の手元に届けられるとき、
ビニールに包まれているんですが、それをまず破ってもらわなければ
なりません。そのために、ワクワクしながら「今月の表紙は何かなって」思ってもらえるような表紙にしたいと思っています。
そして、表紙を見た時に「これはなんでできているのかなあ」って
家族で会話してもらいたいんです。
おじいちゃん、おばあちゃんとでもいいし、兄弟どうしでも
クイズみたいに楽しんでほしい。
-: 盛り上がるし、この表紙なら年代関係ないですね。ところで、『ちゃぐりん』は小学生を主な対象として設定されているんですか。
中: 小学校中学年の、3、4年生が読める内容で編集しています。
総ルビなので、低学年の子どもたちも読んでくれています。
表紙を含めると、現在、約50本近い数の企画を入れています。
萩原: 難しいことをわかりやすく書くっていうのは非常に難しいです。
-: 難しく言うほうが簡単ですよね。
萩原: 子ども向けとはいえ、大人でも十分楽しめる誌面だと思います。
81歳になるわたしの母も愛読者です。
-: 一冊きちんと読むと、時間掛かりますよね。
そして、勉強にはなるけど難しくはないし、楽しい。
萩原さんも中さんも、正しい知識を伝える、ということを
大切にしているっておっしゃっていました。
中: 農産物についての記事も多く取り上げていますが、
わたしたちは農業のプロではないので、監修の先生や、取材先の農家の方々のお知恵をいただきながら、正確な記事を作るよう
注意を払っています。
萩原: 学校の先生にも喜ばれているんですよ。わたしの姪が小学校の教師をしているのですが、教材として使っているみたいです。
学童クラブなどでも活用されているようですし。対象である農家の
子弟だけでなく、それ以外の子達でも読める内容だと思います。
中: そうですね。食農教育をすすめる雑誌ですので、
主なテーマはずばり「食」と「農」です。
読者の子どもたちには、ごはんや野菜、肉などがどんなふうに作られて
食卓にのるのか理解してほしいですし、そのうえで毎日の食事を
大事にして、生きる力を身につけてほしいと思っています。
-: 子ども自身に考えてもらうことで知ってもらうことが、
全編に渡って貫かれています。『ちゃぐりん』を通じて子どもたちに、
感じて欲しいことってどんなことですか。
中: わたしは、季節感を大事にしたいなって思っています。
萩原: 料理などは『家の光』もそうですが、その季節にあるものを使う、というのが原則です。
-: 季節感もあるし、『ちゃぐりん』を読んでいると、
食物が出来上がるまでの話も非常に大切にされています。
うつわも一緒だと思うんです。
例えば、林京子さんて、こういう人で、こんな趣味があって、
だからこんな絵描くんですよなんてことを知ると
もっと好きになるし、大事にすることができる。
食べ物も親に「食べ物って大事なんだから、残しちゃダメよ」
なんて言われても、子どももなかなか理解できないと思うんですよね。
でもこうやって、おじちゃんが作っているとか、畑の写真を見るとですね、特に機械生産でなく、人の手を介している日本の農業を
子どもに見せるっていうのは、残さず食べろっていうより、
よっぽど食べ物を大切にするんじゃないかなって思います。
萩原: そうですね。野菜などは自分で作ると、さらに大事にする。
中: 食べ物と田畑が、子どもたちの頭の中でつながるといいですよね。
JA(農協)主催の夏休みのイベントで、自分たちで作ったニンジンや
ジャガイモでカレーを作ったりすると、ふだん食の細い子でも
残さず食べていますよね。その野菜を自宅に持って帰ったりすると、
やけに偉そうに「大事に食べてね」とか言い出す(笑)。
「俺が作ったんだからさ」とか言って愛着がわくんですね。
そういう意味でもお米や野菜などができるまでのプロセスを知ることは
大事だと思います。
-: 経験が、一番子どもの心に響くんですね。
萩原: そういう中で『ちゃぐりん』を活用しつつ指導していただければ幸いです。
食と農業と子どもたち
-: そういう中でも、親から子へ、子から孫へ伝わることも
あるといいのかな、と思います。自然との付き合い方なんていうのも、
伝わるものあるのではないでしょうか。
萩原: 農産物は工業製品じゃないから。お天気には勝てないし。 自然とのお付き合いの中で、いろいろ折り合いをつけて進めて いくわけですから。自然の中で生産者が知恵を出して、いいものを作って、
わたしたち消費者がいただく、ということですから。
萩原: やはり季節のものが一番おいしいし、人間の体ってうまく
できていて、春先は苦味のあるものが欲しくなるし、夏はすっぱいものが
欲しくなる、そして秋冬は根菜類がおいしくなるものね。
やっぱり自然に沿って作られたものを食べていれば間違いないのかなって思います。
-: 季節ごとのおいしいものを、長年かけて農業が作り出して
きているんですね。
取材で農村地帯へ行かれることも多いのではないですか。
中: 農家の子やちゃぐりんレポーターの子どもたちが
おうちの仕事を紹介するという企画があり、編集部員が毎月、
取材に出かけています。
-: 農家の子どもたち、どんな感じで自分の家を取材するんですか?
中: この前は、自分の祖父母の家を訪問して、お米作りについて 教えてもらうという内容でした。そうすると、おじいちゃんの家から
昔の米作りの道具がたくさん出てくるんですよ。
足ふみ脱穀機とか、代かき用の道具とか。
萩原: わー、こういうの懐かしいわ。
中: 「こんなのあったんだー」って子どもたちも驚いて。
そして、おじいちゃんも、張り切って説明してくますよね。
-: ちゃぐりんの記事には必ずと言っていいほど、歴史背景も含まれていますよね。きんぴらごぼうは江戸時代の食べ物で・・・なんていう風に。
今はこうだけど、昔はこうだったって入るんですよね。
中: そうですね。長い間続いてきて、今の形になったというのを
ていねいに紹介するようにしています。昔と今の農作業道具の企画も
よく掲載します。「昔の道具は木でできているものが多い、
鉄は貴重だったんだ」という歴史が子どもたちもわかりますし、
米作りのたいへんさを知って、おじいちゃんが作ったお米もいっそうおいしく感じるようです。
中: (珈琲の器を指して)これ林さんのカップですか?
萩原: 林さんのうつわは使いやすいよねえ、本当に。
-: うつわ沢山お持ちですから、萩原さん。
萩原: ただ好きなだけですから(笑)。
わたしが編集の仕事を始めた80年代頃って
料理関係のスタイリストさんってまだ一般的ではなかったんですよ。
リース屋さんもほとんどなくて、撮影のときは編集者がうつわを
用意して、あとは先生のうつわを使わせてもらうことが多かった。
だから、土井勝先生や小林カツ代先生の単行本なんか作るときは、
よく花田さんでお借りして使わせてもらっていました。
そのうちスタイリストさんの役割が確立されてきたので、
編集者はそういう仕事をしなくてすむようになったんです。
ただ、わたしは仕事がきっかけでうつわが大好きになっていくんですが。
-: ちょっと前までは、編集の方がすべてされていたのですね。
萩原: そう、うつわからなにから(笑)。でも、楽しかったわ。
このお皿も林さんですよね。
ほんと、林さんのうつわは、使いやすい。どうしてかしら。
-: 林さん自身が女性であり、主婦であり、
母親である経験からでしょうか。使いやすさだけでなく、
洗いやすさ、しまいやすさもありますよね。
萩原: ひとつのうつわで何通りにも使い回せますしね。
そういえば、今年の個展で林さんとお話しした時、
最近あまり大きいもの作らなくなったっておっしゃっていました。
ライフスタイルの影響みたいで。
わたしも最近は小さいうつわを使うことが増えました。
娘も社会人になり、外食も多くて、家族がばらばらで個食が多いので。
そうすると、ひとり分をお膳に並べて。
中: 立派ですね! わたしの場合だと、ついつい手抜きしてしまいます。
萩原: そっちのほうが楽しいじゃない。
ホコリで人は死なない
中: 萩原さんの子育て中の料理やうつわの話を聞かせてください。
萩原: この仕事を始めて30年以上になりますが、
村上昭子先生の単行本を作っている時に、娘が生まれたんです。
そうしたら村上先生に「あなた、子どもを育てながら仕事するのは
大変だけど、とにかく食べることを大事にしておけば
絶対、横道にそれることはない。
胃袋を掴んでおけば子どもは必ず帰ってくるから」って言われたんです。そして「掃除も大事だけど、ホコリで人は死なないから」って(笑)
-: 当時は、今ほど働いているお母さんは多くなかったですよね。
萩原: わたしの頃は育児休職制度がなくて産休だけだったんです。
生まれる前8週間、生後8週間で復帰する時代でした。
中: わたしは職員で育児休暇を取得した第一号のようです。
子どもが10か月のときに職場に復帰しました。10か月もあると、
生活にリズムができてくるので、2か月とは随分違うと思います。
萩原: わたしの娘はまだ、首もすわっていなかった。
生後2か月から保育園です。
-: 大変ですね。
萩原: 楽しかったですよ。
-: そう言えるのはさすが。
仕事しながら子ども育てるのは大変ですよね。
萩原: 実は、わたしは洗い物も苦にならない、好きなうつわなら。
食洗機なんてとんでもない(笑)。
-: 洗うのも好きなうつわなら、そうかもしれない。
中: うつわを決めてからお料理を決めるんですか?
萩原: うーん、まあ大体作りながら段々決めていく。
今日の気分はこれかしらって。並べたときのバランスとかね。
円形だけだから、四角いうつわを入れてみようとか、
一人で結構楽しんでいます(笑)。
-: 子どもがよろこんで「わー」って食べてくれるとうれしいですよね。
萩原: 松井さんも小さい頃は、いいうつわでご飯食べていたんでしょう。
-: 覚えているのは、食事のたびに、父親が自分の持っているものの
話をしていたことでしょうか・・・
幼稚園のときに李朝の刷毛目ぐい飲みの自慢をされても、わけわからないですよ(笑)。あと、僕、小学校の目の前に住んでいて、みんな学校の帰りに、友達がうちに来ていて、僕が帰ると友達がいるような状態だったんです。「お帰りー、松井ー」みたいな。
中: 「遅いよ、待ってたよ」みたいな(笑)
-: そうすると、みんなでおやつ食べたり、時間によっては
みんなでご飯食べたりしていた。今も同窓会で友達に会うと、その時の話になる。
そういうの聞くと、みんなで一緒に賑やかにご飯食べるのが楽しかったなっていう記憶はある。で、土曜日は、みんなで昼ごはん食べてね。
中: お母さんがその準備を? 素敵ですね。
-: そのはずです・・・母親は何も言いませんが。
今いろいろ友達に言われると、感謝するところです。
じんわりと染み込んでいくもの
萩原: その時はなんとも思わないんじゃないですか。
でもだんだん大人になってきて分かってくるというか。じんわり。
-: そう、まさにじんわり。
萩原: でもそういうじんわりとしたものを培っていくっていうのが、
家庭の役割、親の役割なんだと思う。
それは日々の暮らしの中でしか出来ないことです。
-: 日々の小さいことの一つひとつこそが人間の人間的な部分を形成していくんですね。
中: じんわりという意味では、幸せな時間のほうが染み込みますよね。
萩原: そうね。高いとか安いとかじゃなくて、自分の”好き”を 大事にしていくことが幸せなんだと思う。そして、それを使っていく。 暮らしを楽しむっていうのはそういうことなのかなって思います。
-: 豊かに生きるってことですね。
中: うちなんか、何か残るかしら、子どもの記憶の映像に・・・。
萩原さんのおうちはランチョンマット敷くことが決められていたんですよね。
萩原: ごはんよ、て言うと、娘にそれを敷かせていたんです。
-: それがお嬢様の仕事。
萩原: そうそう、小さくてもランチョンマットや箸置きくらいなら
手伝えるから。
-: さきがけじゃないですか。ランチョンマットなんて、昔なかった
ですよね。うまくお手伝いの導入が出来たんですね。
そういう習慣がついていると大きくなってから、普通にお手伝いされるんじゃないですか。
萩原: その予定でしたが、今は全くしません(笑)。見事なまでに
手伝いません。
-: でもランチョンマット敷いたり、箸置きおいたり?
萩原: そう、それだけ。やらせようとすると、かえって疲れちゃう。
すぐ言い合いになるし。
中: 一番いやなのが、ご飯を雑によそうことですね。
萩原: フワッとキレイに盛らないと。
中: 盛ればいいと思っているらしく、ほんとうに気にしません。
-: しゃもじの縁と飯碗の縁でべろってやったり(笑)?
中: そうそう、それだけは勘弁です。ごはんはおいしくよそってね、ってしつこく言います。
-: よく召し上がる頃じゃないですか、今?
中: 長男が中学3年のころは丼に大盛りでした。最近、家には、 大・中・小の茶碗があって、自分のお腹具合で選んで、 自分たちでよそってきますよ。わたしが気を利かせて 多めによそっちゃうと「俺は今日はこんなに
食べない」とか言って、食べる前に炊飯器に返却しにいきますよ(笑)。
萩原: それは偉いですね。
-: おやつなんかはどうだったんですか?
萩原: 娘が小さい頃、おやつもお皿に出して食べさせていました。
袋から食べないで。
-: きめこまかい。
萩原: お皿に出して、お皿から食べるって言うのが、
なんていうんだろう、けじめというか、一線というか・・・
-: なにかそこに一つの線があるのですね。同じポテトチップでも。
萩原: だからその、食べ過ぎないっていう・・・
結局食べちゃうんですけどね。お菓子の袋をしまって、また出してきて、それで食べてって。意味ないように思えるんだけど(笑)
-: 惰性で食べ続けるのとは違う気がします。
萩原: 多分そこに一線があるのかなっていう気はしています。
娘が小さいとき、ビスケットなんかを出すときに「年齢の数だけね」って言って「いま何歳?」って聞いて、その年齢プラス1枚あげていたことがあります。4歳だと「一つ、二つ、三つ、四つ……ひとつおまけで五つ」ってお皿に出して。それで、あるときいつものように「何歳?」って聞いたら「99歳!」。数を多く言うと、たくさんもらえることに気が付いたんですよ。
-: 可愛いですね。知っている数の中で一番大きい数が99だったんですね。
中: で、100を狙うと。
萩原: 子どもながらに知恵をつけるのね。
-: プラス1ってうれしいですよね。毎日のそういうことって
本当にいい思い出になりますよね。
中: ゆったりしたおやつの時間でいいですよね、袋から直接だと3つくらい一気にいっちゃうけど。
萩原: いまは、こうですけどね(笑)(と言って袋から出して食べる動作)
-: 袋から出す、一緒に数を数える、ひとつおまけをもらう、 そして選んだうつわに・・・そういう一つ一つの共同作業が思い出になるし、
愛情を感じていることになるのではないでしょうか。
食事も、食べるときだけの話しではないですよね。
その前の話もあるわけです。例えば、お母さんが料理している
出汁の香りや包丁の音・・・子どもは食べることや食事をそういうことも
含めて理解したり、受け止めたりしている。
もっと言えば、農家で作られるところから始まっていることも見て、
子どもにとってのご飯を食べることの意味が変わってくる。
「いただきます」「ごちそうさまでした」の意味も変わってくる。
僕は決してそんな子どもではありませんでしたが(笑)、
感謝の気持ちは大切ですね。
萩原: 匂いや音は大事ですね。子どもが帰ってきて、台所に立ち込めた
匂いで「きょうはカレー?」とか「今日はお魚?」って会話も始まる。
食べるってことはそこから始まっている。「肉じゃが?」「はずれー」とか言いながらね。多分ね、それって、なんでしょう、
それが家庭料理の意味なのではないでしょうか。
-: カレーの匂いかぎながら、早く食べたいなーって夕食前に我慢した経験・・・思い出しますね。
中: まだなのかなーってね。
萩原: 匂いっていうのは、料理しないと漂わないからねネットの時代も
匂いだけはどうにもならない。いい匂い、わるい匂い。
-: 一番擬似で作りづらいものですね。空気を伝わってくるものって
のは画面からじゃあ、なかなか伝わってこない。
中: 魚を焦がした匂いも思い出ですよね。
萩原: そうそう(笑)
中: 全部含めての食卓ですね。 わたしの母は、茶碗蒸しを作るのが
大好きで。家には茶碗蒸し用の蓋物があって・・・。母の自慢の料理に、
自慢の器だったのではと思います。わたしもその器の蓋を開けるのが
すごく楽しみだったのを覚えています。
-: その蓋物見ると、当時のこと思い出すんじゃないですか。
中: そうですね。味も匂いも思い出しますね。
萩原: 蓋付のうつわってワクワクしますよね。家庭でそんなしょっちゅうは使わないんだけど、お椀なんかで蓋付のものを出して、わーっみたいな。
-: 蓋物の魅力は蓋開けた瞬間のフワーっていう香り、とかね。たまに使うっていう、それもいいですよね。
萩原: それと漆器がすごいな、ってあらためて思います。
英語じゃJAPANで呼ばれるくらい、日本のものとして認識されている。
見た目もキレイ。お椀など、熱々のもの入れられるし、軽いし、
修理もきくし、冷めないし。落としても割れないし(笑)。
-: 日本の食文化にあっていますよね。
萩原: もっと漆器もひろがるといいですね。
扱いが面倒だって思われすぎていますよね。
中: 冷めない、といえば、たまに熱いうちに家族に食べさせたい時に
イライラするんですよ、みんなが集まらなくて。早くーって。
みんな来てよーって。
-: すぐ行く、すぐ行くとかいいながら、一向にこない(笑)。
中: なにしてんのよーって言うと、子どもがYOUTUBEがどうとかこうとか言い訳して・・・
萩原: 作っているほうにしてみれば、一番いい状態で食べさせたいと思うから。だから、早めに言うのよ。ごはんよーって。
そうするとちょうどいい時間にみんなが集まる。
-: 細部にノウハウがいたっていますね。
「食べる力」は生きる力
萩原: ところで、今度のMOAS Kidsは林さん中心ですか?
-: 林さんも沢山あります。4つのセパレートプレートやら。
さて、色々お話を伺ってきましたが、最後、食に関して、
子どもたちへのメッセージは何かありますか。
中: 一食一食の大事さを、感じていて欲しいなって思います。
うちの子は高校生になって、夕ご飯を友達と食べてきてしまうこともあるんですが、何を食べてきたかやはり気になる。 「なに、食べてきたのー」なんて聞くと「今日はカレー」なんて答える。お米、食べたんだとわかるとなんとなく安心します。
コンビニでお昼ごはんを選んでいる学生を見ていると、「今日は俺、
野菜が足りなかったな」「温かいみそ汁でも添えなきゃな」、
なんていう風に考えているといいなって思ってしまう。
欲望のまま選ばないでね、と。そういう力を『ちゃぐりん』を読んできた読者に身につけてほしい。それがエネルギーになるし、
心のバランスを保つことにつながるのではないでしょうか。
-: たまには脂っこいものばかり食べてもいいけど、
罪悪感を少しは感じましょうよ、と。
中: 自分の家だったら、から揚げにキャベツの千切りが付いていたなとか、そういうことを思い出して欲しいですね。
-: 野菜残して、肉ばかりお代わりしていたら、普通叱られます。
中: 罪悪感も大事ですね。そして、食べ物を大事に思う力をつけてほしいと思います。
-: 萩原さんからもメッセージいただけますか。
萩原: 食べる力は生きる力、だと思う。娘が赤ちゃんのとき、 保育園でよく食べていたらしくて。お友達の分も食べちゃうくらい(笑)。「食べる意欲がある子は生きる意欲も強いから、それはすごく大事なことです」って、保育士さんに言われて、安心した覚えがあります。
萩原: 小林カツ代先生がよくおっしゃっていたんですが、 お腹がすくっていうことはすごく大事なことで「お腹がすいていれば、 あまり好きじゃないおかずでもちゃんと食べるわよ~」って。 そういう意味でも、三食をきちんと食べてダラダラ食べないって いうことが、大事なのかも。
萩原: 空腹が一番のご馳走!
-: なるほど!
-: 今日は、色々お話頂き有難うございました。勉強になりました。MOAS Kids展にも是非遊びにいらして下さい!
萩原: 楽しみにしています。
中: ぜひうかがいたいと思います!
お天気だったら北の丸公園へ行こう!と計画。
秋晴れとなった当日は、心地いい開放感の中
淹れたてのコーヒーと焼きたてのバナナケーキで寛ぎながら
食や農、家族、子育て、食卓、うつわについて
ゆっくり話すことができました。
編集という立場で培われた、伝えることについての深い見識や経験が
言葉の端々に現れて、とても勉強になりました。
じんわり・・・心に届くお話しでした。
インタビュー一覧
- 共用品推進機構 星川安之氏×花田店主 松井英輔
- お客さま 多田ファミリー
(多田光博さん、昌子さん、多田康雄さん、麻希さん)×花田店主 松井英輔 - お客さま 多田ファミリー
(多田光博さん、昌子さん、多田康雄さん、麻希さん)×花田店主 松井英輔 - 花岡隆×余宮隆インタビュー第2話
- 花岡隆×余宮隆インタビュー
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