稲村真耶インタビュー


稲村真耶工房

こちらの記事は、2015年に稲村真耶さんの工房を訪ねた時のインタビューです。


2015年9月23日からはじまる二人展
「充実の時間」阿部春弥×稲村真耶にむけて、作者の稲村さんにインタビューをしました。
花田初登場より2年、今回企画展初となる稲村さんに、うつわ作りとの出会いから道のり、
うつわに対する稲村さんの想いを伺うことが出来ました。
お話しは、ふんわりとしたやさしい雰囲気ながらもどこかまっすぐな芯を感じる稲村さんのうつわそのもののような内容に・・・
どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。

稲村真耶

師に学んだ修行時代
「先生が美味しいものの話しをしている時って、本当に楽しそう。」

花田:ものづくり、うつわづくりを志したきっかけは何かあったのですか。(以下花田-)

稲村:ものごころついた時から自分に協調性がないことは自覚していまして・・・(笑) でも、働くことは好き。そうなると、ある程度は自分で完結させることのできる仕事のほうがいいのかな、と。少なくともOLさんは無理だろうと(笑)。で、なにか手に職つけて、生きていこうと考えたわけです。生まれ育った場所が常滑だったし、まず思いついたのが陶芸。叔父が瀬戸で陶芸の仕事をしていて身近だったこともあり、15歳のときの高校進路指導で「セラミック科、行きます!」って宣言して、この世界に入ってきました。

-ものづくり、やきものにもいろいろあると思います。その中でなぜ食器だったのでしょうか?

稲村:最初はオブジェを志していました。ところが修行先の藤塚(光男)先生が、”食べること”をとても大切にしている方で、そこで毎日使ううつわの大切さに気づいたのです。

-オブジェ目指していたら、そもそも普通藤塚さんのところには行かないような気もします(笑)

稲村:その通りです。その当時、とにかく早く家を出たい一心でして・・・(笑)その時目にしたのが、藤塚先生の下での仕事の募集でした。藤塚先生、京都だから、一人暮らしできる!って。これなら親も説得できるだろうって。で、応募、面接と進みました。

-藤塚さん、面接でどんなこと聞くんでしょう。興味あります。

稲村:緊張していたので、なにも覚えていないです・・・

-藤塚さんは、お弟子さんや後輩の面倒見、とてもいいですよね。藤塚さんのところにいた方たちと接すると、感じます。焼き物を作れるようになることも勿論だけど、陶芸家、或いはうつわ作者として生きていけるように育てていらっしゃるな、という印象です。

稲村:下宿先まで一緒に探していただいて・・・本当にいろいろ教えていただきました。特に、食べる楽しみ、美味しいものや楽しい食卓に対する思いを身をもって学べたと思います。「生きる基本=食べること」という、当たり前だけど忘れがちな、大切なことを体で覚えた充実した時間だったと思います。また、先生が美味しいものの話しをしている時って、本当に楽しそうなんですよね。

-稲村さん、どんなお弟子さんだったのでしょう・・・

稲村:正直言って、私、自分みたいな弟子がいたら、本当に困ります。無口で、何考えているか分からないし。よく我慢してくれていたと思いますよ。おまけに、よく失敗もして、迷惑もかけていましたから。あと、遅刻もたまに・・・

-そりゃ叱られます(笑)

稲村 作ることについても、細かく教えていただきました。特に、轆轤は回数ひけよ、というのはよく言われていて、それは今でも心がけています。

-藤塚さんの場合、初期伊万里がひとつのテーマになっています。

稲村:初期伊万里は大好きです。力の抜け具合とか、こなれてしまう前の力強さ、みたいな。絵付けも上手さではなく、持っている勢いやエネルギーが独特。

稲村真耶

「すごーく気に入って、ずーっと持っていたい・・・」

-うつわを作る上で大切にしていることはありますか。

稲村:私の場合、陶芸をアートとしてはとらえてはいません。使いやすくて、食卓の脇役であって、日常が豊かに感じられるようなうつわが出来たらなと。

-それ、難しいことですけど、稲村さんの仕事からも目指していることはひしひしと感じます。そして、稲村さんの場合、絵付けが魅力です。

稲村:描いていても自分自身が楽しく感じられることを大切にしています。ただ、楽しむのはいいけど、ふざけすぎないように気をつけないと。調子に乗ってしまいやすいたちなので。

-(笑) 初めて稲村さんに会ってから2-3年経ちますね。懐かしいです。あの頃から比べると、ここ1-2年で作るものの幅も随分広がってきました。

稲村:はい。ルリ釉のうつわも気に入っています。濃い目のルリのうつわが自分でも欲しいと思っていたので、それがうまく出来たことは素直に喜んでいます。

-あと、種類だけじゃなくて、持っている雰囲気も、広がりを見せるようになったというか。のびのびとしたものが感じられるようになってきました。

稲村:前より気持ちが楽になった、というのはあると思います。以前は、自分を抑えていたようなところがあって。

-抑えていた、というと?

稲村:師匠に似ちゃいけない、って思い過ぎていて・・・ モチーフは先生が使っているものを使わないようにとか、真似しているように見えないようにとか、そういうことを意識しすぎていました。そういうことばかりしていると、かえって似てきちゃうんですよね、不思議なもので(笑)。ある時から、そういうことを気にしなくなりました。

-つい先日、別の作者の方も同じようなことを言っていました。師匠のにおいは、結局一生、抜けないし、だからこそ、最初に付く先生は大事なんだと。抜こうと思って抜けるものじゃないんですよね。対峙するより、それとどう付き合っていくか、どう自分のものにして取り込んでいくかを考えたほうが、前進していける、そういうことなのでしょう。

稲村:そう、そんなことに気づいたんです。それから気が楽になって、自分の中からいろいろなものが自然と湧いてくるようになった。

稲村真耶

-稲村さんにとっての、夢のうつわ―作るものの理想像はありますか。

稲村:具体的なイメージを持っているわけではありませんが、自分が、すごーく気に入って、ずーっと持っていたいと思えるうつわです。

-”すごーく”、”ずーっと”・・・この長音符から稲村さんの理想像の雰囲気が伝わってきます。理想は高く、ですね。

稲村:今は、まだまだ良くできるって、いつも思うんです。ああすればよかった、こうすればよかったって、いつも思ってしまう。

-ああすればよかった、と色々と思えるのは稲村さんの魅力だし、現在の創作意欲の充実を物語っている気がします。

稲村:有難うございます。今、楽しくてしようがないんです。こういうのを描いてもいいかもとか、あのかたちもいいかも・・・って興味がどんどん湧いてくる。

-常に何か湧いてくる感じですね。僕もこちらに伺って新しく作ったものを見せてもらうたびに、あ、また前進しているなって感じます。

稲村:ずっとこの調子かもしれませんね。終わりは見えないほうがいいのかも。いつも、見えていて捉え切れている部分と、見えていない部分があって。それもモチベーションになっている気がします。

稲村真耶

-また、稲村さんの仕事振りを見ていると、度胸あるなって思います。悩むことはありますか。

稲村: 最初の話しに戻ってしまいますが、対人関係は悩みます。でも、一人でする仕事について悩むことはまずありません。一人だと自由なので。一人でやることに向いているんでしょうね。

-自由すぎると困ってしまう場合もありますが、稲村さんの場合はその辺りの心配はないですね。さて、今回の二人展ですが、いろいろ古いものも見てもらいました。

稲村:実物をそばにおいてモノを作るというのは勉強になります。美術館や写真で見るだけだと、分からないことも多いので。

-作っていく過程の中で、気づくことや、不思議に思うことも多いと思いますし、その時、返事をくれるのはやはり実物ですよね。

稲村:はい、今回もいろいろ手間取りましたが・・・

-モッコ皿、面白かったですね。稲村さんにこう活かして欲しいなって僕が思い描いていた通りのものができて・・・初めて見本を見せてもらった時は素直に嬉しかったです。はまったー、って。

稲村:それは良かったです。あのお皿には、私、日本っぽい雰囲気も感じます。それなので、より取り込みやすかったのかもしれません。洋食器っぽく使ってもらってもいいし、和菓子も合いそうですよね。絵付けは、モチーフも含めていろいろ考えて試してみたんです。その末、最後にポッとでてきたのが、あの鹿でした。出来あがってきたらとても良くて、個人的にも今回の中で最も気に入っている新作の一つです。

-あまり、書き込まなかったのも良かったですね。程よい余白のおかげで全体の間がよくて、あのかたちのよさが活きています。そして、八角鉢も目をひきます。あれは、ベルギーのものでした。

稲村:型を起こす時には随分、気を使いました。キレイできちっとした八角にはしたいけど、硬くはならないようにしたい。キレイだけど、柔らかい八角。そういう感じを目指して、試行錯誤しましたが、うまくいってよかったです。

-稲村さんの作る素地の基本的な考えかもしれません。丁寧にきっちりと作りはするが、あまり硬さは感じません。いずれにしても、充実した新作群です。クラシックなものからポップなものまで。新たな方向性も出てきた感じもします。多くの新作から、今回の企画展用に選ぶの苦労しました、というか、ほとんど全部頂くことになっちゃいまいした。

稲村:はい、しばらく休みに入る前の最後の展示会でもありますし、気持ちを込めて、精一杯作りました。そして、阿部春弥さんのきりっとしたうつわと並ぶのも楽しみです。お客様に喜んでいただけること、願っています。宜しくお願いします。

-お客様に見ていただくのが、僕も待ち遠しいです。

-さて今後について、何か考えていることはありますか。

稲村:これからしばらくは産休に入ってしまうので、その間は図録や古本などの今まで集めて、たまっている資料を読み返していきたいです。過去に見たことがあるものでも、その中から面白いなと感じられるものを再発見できたらいいな、と思っています。あと、知人のイラストレーターで、出産後、絵が柔らかくなってとても意欲的になった方がいるんです。育児を通して、表現が変わっていくことがあるとすれば、それも楽しみです。うつわ作りと育児の両立は大変でしょうけど、うつわ作りはずっと続けていきたいです。

-その変化も楽しみにしたいと思います。本日は有難うございました。

稲村:有難うございました。


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