2016年4月20日からはじまる
「今様色絵とスリップウエア」日下華子×山田洋次 二人展に向けて
作者の山田洋次さんにインタビューをしました。
やきものとの出会い、イギリス
そして、スリップウェアとの出会い・・・
今目指すやきものへの挑戦。
山田さんの旅は続きます。
やきものの、旅のはじまり
花田: 山田さんがもの作りに関わるようになったのは、いつごろからですか。(以下 花田-)
山田: 両親が信楽の焼き物を好きだったこともあって、
小学生の時に、信楽の陶芸体験で土を触ったのが最初です。
でも、高校の化学の先生が面白い人で、最初は化学の世界に惹かれていました。
その先生、しゃべっている姿が魅力的で・・・世の中の全てのことは化学で説明が付く、
みたいなこと言うんですよ。憧れるし、それまで自分が理解できなかったことへの答えが
そこにあるような気がしたんです。大学も理工学部へ。
ただ、大学で本格的に化学の勉強を始めてみると、自分のイメージと随分違った(笑)。
僕自身の早とちりなんですが・・・実際は内容が物質的なこと一辺倒で。
今思えば、もっと精神的なことを期待していたんです。
で、元々興味もあったので、大学3年時に1年休学して
信楽で後継者育成のコースに1年通うことにしました。
土触ったら、小学校のときのあの土の感触が手によみがえって来るんです。あれには驚きました。
今思えば、あの1年が転機になりました。それで、大学卒業後は信楽の製陶所に二年勤めました。
-: イギリスに焼き物の勉強をしに行くのはその後ですね。
山田: はい、中高生の頃からイギリスのファッションやパンクに憧れていて、
いつか行きたいと思っていたんです。
元々はイギリスの焼き物に憧れていたわけではないんです(笑)。
で、製陶所をやめて、イギリスに行くためにお金を貯め始めました。
アイスクリーム工場、うどん工場、焼き鳥屋・・・バイトをいくつも掛け持ちしました。
1年半かかりました。で、展望台で有名なロンドンのグリニッチにある、メイズヒルポタリーへ。
-: 先生のリサ ハモンドさんとは元々面識があったのですか。
山田: ありません。知り合いにリサのメールアドレスを教えてもらって、連絡しました。
-: 勇気ありますね。
山田: いきなり弟子入りの話ししてもどうせ門前払いでしょうから、
少しづつ自分を理解してもらえるようにしました。
-: (笑)そりゃそうですね。
山田: 実際イギリスに会いにもいきました。
でも、英語はさっぱり。会話はほとんどできないんです。
だから、会う前に、伝えたいことだけ文章におこしておいて、それから会っていました。
言いたいことは言えるんですが、リサが言っていることはチンプンカンプン(笑)。
よく、受け入れてくれたと思います。
-: イギリスでは日本との違いも色々と見ることが出来たのではないですか。
山田: はい、色々ありました。例えば日本だと弟子と師匠ですが、イギリスではある意味対等。
相談すれば乗ってくれるし、こちらの提言も受け入れてくれる。
あと、国外に出て気が付いたんですが、海外の多くの陶芸家たちが想像以上に日本の焼き物に
敬意を持ってくれているということ。
これは日本の人たち、もっと誇りに思っていいかもしれません。
特にあっちで焼〆なんかやっている人は、思いっきり六古窯目指していますからね。
日本よりある意味ストレートかも知れません。あと、土も違う。
特に高火度のものは日本のほうがずっといいと思います。
スリップウェアとの出会い
「自分の作りたいものはこれだ!」
-: ところで、スリップウエアですが、最近は若い方たちの間でも注目を浴びています。
リサさんの仕事はスリップウエアではありませんよね。スリップウエアとの出会いは?
山田: あれは、信楽から休学を終えて大学に戻ったときだったと思います。
理系ですから実験で研究室に泊り込むんですが、待ち時間も多いんです。
で、インターネットで2003年大阪民芸館でのスリップウエアのポスターを、
たまたま目にするんです。
あれには衝撃受けました、自分の作りたいものはこれだ!って。一瞬にして感じました。
そのあと民芸館に飛んでいきましたよ。
うまく言葉で説明できないのですがうつわが大きい感じ。おおらかで。
-: 包容力とも言えそうですね。
山田さんの好きなスリップウエア、具体的にはなにが挙げられるでしょう。
山田: 分かりやすいところで言えば、
やはりあの柳宗悦さんが写真で抱えているもの(日本民藝館)でしょうか。
-: 縦と横の線の対比がいいですよね。
山田: そして、これ(写真を見ながら縞文様のものを指さして) 。
少しゆがんでくるのがいいんです。
多分右から描き始めていって、最初は規則ただしく描いているんだけど、
すこしづつずれていくのがいいんですよ。見込みの丸みも気持ちいい。
あと、これも好きかな(三連文様のものを指差して)。
-: 三連独特のリズム感です。
山田: 三つとも釉調がいいんですよね。柔らかくて艶っぽい。
材料も当時と違うので、日本の現在の原料で
当時の製法をそのまま再現するだけでは難しいでしょう。
今までに無い方法を考えるしかないと思います。
実現したいのは、そのものの表面的な見た目ではなくて、その雰囲気とか質感です。
-: さて、スリップウエアは、そのもの自体が非常に特徴的です。
そのスリップウエアという範囲で、山田さんにとって自身の独自性を意識されますか。
山田: 無理に昔のものを模すつもりもないし、僕は天才でもありません。
古いものを模しながら、自分の焼き物を少しづつ築いていきたいと思っています。
-: 仕事をする上で、技術的に大切にされていることはありますか。
山田: 釉調、リズム感、土の柔らかさ、の3つです。
暫くそばにいると語りだすような・・・雰囲気
そんな部分を表現したい。
-: 今後、山田さんが目指すスリップウエア、どのようなものなのでしょうか。
山田: スリップの技法を使わずにスリップの雰囲気を出したいんです。
-: と言うと?
山田: 僕、焼〆でもスリップウエアの持っている雰囲気は出せると思っているんです。
-: その雰囲気というのは、山田さんにとってどのようなものなのでしょうか。
山田: スリップウエアにもえぐい部分があると思っていて、最近の軽やかなうつわとは違う、
なまめかしさ、というか。
-: 古いものから感じることなのでしょうか?
山田: 家にある昔のスリップウエアから感じます。
最初は資料として選んでいることも多いのですが、
店で買って、自分の近くに置いておくと語りだすんですよ。
美術館などで見ているだけでは伝わってこない、暫くそばにいると語りだすような、
そういう部分を表現したいと思っています。
-: 昔から残っているもの、大事にされているようなものが持っているものなのでしょう。
山田さんは昔のものへの探究心と、現代生活への展開意欲のバランスが健全だと思っています。
さて、4月の企画展に向けてですが、新作も色々と作って下さいました。
山田: 日常使いには適さない大きなものも見て下さい。
制作欲のみで作ってしまったものも結構あって、見るからに使いづらいものも、見て欲しいです。
買っていただかなくてもいいので、是非見てみて下さい(笑)。
-: そういうもののほうが、人は心打たれるものです。
山田: それだったら、本当にうれしいです。
-: それでは企画展宜しくお願いします。
企画展名:今様色絵とスリップウエア
開催期間:2016年4月20日(水)~ 30日(土)午前10時30分~午後7時
※会期中無休
《写真》
左側:山田洋次 手前から、ハンドルマグ/胴径7.5×高さ8.5cm(取手なし)
ジャグ(M)/胴径10×高さ18cm(取手なし)
右側:日下華子 手前から、サンダーソニア小鉢/径11×高さ5.5cm、
サンダーソニア深鉢/径17×高さ19cm