HANADA meets…
MOAS Kids 1周年企画 子どもの世界をめぐる Let’s connect the dots
第1話・・・東京おもちゃ美術館館長 多田千尋氏とトーク
「食育は体の栄養、木育は心の栄養」
2014年より本格的に子どものうつわ作りを始めた花田の新シリーズ「MOAS Kids モアスキッズ」
1周年を迎え、さまざまな取り組みで子どもたちと接する方々との対談を企画しました。
子どもをとりまく、日々の食卓、遊びの場、学びの機会・・・いろいろな話題を通して感じた
心温まるやさしい気持ち、明るく楽しい気持ち、考えたこと、未来への前向きな気持ち・・・
それら皆さんとの交流を、シリーズでお届けいたします。
一緒に会話を楽しむような気分で、お読み頂けたら幸いです。
ご紹介
東京おもちゃ美術館は「世界のおもちゃと友達になろう」というスローガンのもと、東京中野にて
1984年に開館されました。“見る・作る・かりて遊ぶ“という3つの機能をそなえた美術館として、23
年間広く愛されてきました。新宿区四谷地域住民からの声をうけ、旧新宿区立第四小学校に移転。戦前
に建てられた校舎の11教室を活用し開館をしています。
館内はいつも子どもたちの歓声で溢れ、いきいきとした活気に包まれています。
年間15万人にものぼる来館者をサポートするのは、「おもちゃ学芸員」と呼ばれるボランティアス
タッフの方々。多世代交流もさかんで、丁寧で楽しい説明は来館者に大きな人気です。
館長の多田千尋さんは、木育の大切さ多くの方々に呼びかけ、国内外を問わず常に誰かと出会うため飛
びまわるような日々を送られています。力いっぱいの情熱に多くの人が惹きつけられ、多田さんを通し
て人と人が繋がりいつしか大きな輪となっていたことも数知れず…。
そんな多田さんとおもちゃとうつわを通じての対談、どうぞお楽しみ下さい。
東京おもちゃ美術館 〒160-0004 東京都新宿区四谷4-20 四谷ひろば内 TEL 03-5367-9601 http://goodtoy.org/ttm |
HANADA meets・・・
MOAS Kids 1周年企画 子どもの世界をめぐる Let’s connect the dots
第1話・・・東京おもちゃ美術館館長 多田千尋氏とトーク
「食育は体の栄養、木育は心の栄養」
ママもうれしい木育ひろば
花田 この赤ちゃん木育ひろばは、照明も柔らかくて、木の優しさを感じる場所ですね。(以下花田-)
多田 そう、テーマは杉です。スギコダマというアート作品が象徴的に置かれており、マークもスギコダ
マをモチーフにしています。ひろばの中央に置か れたスギコダマは、秋田杉と吉野杉の2種類があるんで
すよ。この目の細かいのは秋田杉で、目の幅が広いのが吉野杉。寒いほうが成長が遅いので、木目は細か
くなってくる。
-: 触った感じも違いますね。
多田:ママ達にも聞くんですよ。「この中には秋田杉と吉野杉があるんですけど、どれがどれだか分かりま
すか」って。で、教えてあげると「あ、これ秋田」とか「これ、吉野」とかってそれぞれ話し始める。今こ
ういう木育広場を全国に広げていこうと思っています。
-: おもちゃを用意される時は、どのように進めてしていかれるんですか?
多田:私のほうからおもちゃ作家へ「こういう仕事できるんだったら、こういうこともできるよね」って働
きかけます。
-: 技術はあっても、作るものは色々変わってきますし、多田さんからのユーザー目線でのインプットは
大切ですね。
多田:今、無印良品さんには全国30店舗以上も木育広場が存在しています。他にも、自動車メーカーのア
ウディさんも50店舗ほどに木育広場がありま す。どちらの企業も店舗にキッズコーナーを作る場合は、お
もちゃ美術館監修のものを設置するようにしてくださいました
-: この部屋がお店の中に?
多田:そうなんです。デザイナーが一緒だから似ているでしょ。これは滋賀県のドコモショップで9月にオー
プンしました。ドコモさん、スマホの時代になってから待ち時間が1.8倍になってしまったんですって。お
客さんは待ち疲れるし、職員もどうしていいかわからなくなっている。
-: 子ども連れなら尚更ですね。
多田:そういうママのための木育広場を作ろうというわけです。他にも、読売新聞社の新社屋3階に作った
保育園、再来年竣工の三菱地所のタワーマンション、10月オープンの海老名のららぽーとなど、企業の皆
さんが、こういうテイストにすごく共鳴してくださるようになりました。
-: 意識が高くなってきているんですね、こういうことに対して。
多田:面白いのは、ららぽーとの場合、発案者は三井不動産の子育てママの社員だったんです。こういうも
のをぜひとも作りたい。おもちゃ美術館と協力して、ぜひやりたいと。やはり上層部にあげていくと、今
までなかったようなスタイルなので、ストップが掛かることもあるらしいんですけど、情熱で押し進め
ちゃう。「これからはママたちに尊敬されるような赤ちゃんサロンを作るべきです。それが、三井不動産
のこれからの仕事です!」ってプレゼンテーションするらしいんですよね。
-: これは人、集まりますよ。さて、MOAS Kidsもスタートから1年経ちました。色々勉強させていただ
いたし、うれしいことを色々経験できた一年でした。「おもちゃ美術館が花田にやってくる!」から1年経ち
ました。いつも思うんですけど、多田さんのお話しを伺っていると、僭越かもしれませんが、多田さんの
話の「おもちゃ」の部分を「うつわ」って置き換えても、ほぼ話が通るんです。僕は多田さんのことを追いか
けているんじゃないかっていうくらい重なっている部分が多くて・・・
多田:そうですか(笑)。
食育は体の栄養、木育は心の栄養。
-: おもちゃ美術館、平日なのに、今日も凄い人の数ですね。花田のお客様も沢山こちらへ来られている
ようで、皆さん「楽しかったー」と喜んでいらっしゃいました。あと「凄い人の数でした」って(笑)。花田の
お客様もうつわにだけ興味あるってことはないんですね。お子様のうつわに気を使うお母様は、おもちゃ
も手づくりで、温かみのあるものを使わせたい、っていう気持ちが強い。そういう部分でつながるんです
よね。
多田:今年も木のおもちゃ、是非紹介していって下さいね。食育と木育は相性いいはず。食育は体の栄養。
木育は心の栄養。ダブルじゃないと子供は豊かに育ちません。
-: 多田さん、おもちゃを「生活道具」と位置づけられていますよね。日々の暮らしに溶け込んでいくも
のだという見方が、うつわとも一緒です。もちろんアートの側面もあるんですが、基本的にはうつわのよ
さもおもちゃのよさも一緒だと思う。見るだけでなく手に触れて使うことが出来る、というのは何よりの
共通点。そして、そこから得られるものは知識じゃないんです。感覚なんです、色々な。MOAS Kids始め
て、子どもって鋭いなって思うことがあります。僕らはどうしても観念から入っていってしまいますが、子
どもの場合そういう予備知識がまったくない、感覚的に好きか嫌いか、楽しいか楽しくないかっていう、そ
れだけで選ぶ。感覚的に始めると無意識のうちにいいものが養われるのかなって思います。
MOAS Kids子どものうつわ展 昨年の展示より
多田:特に日本のうつわっていうのは手にして使うし、口につけるものが多いでしょう。これはおもちゃ
も一緒なんですよ。特に、ファーストトイっていうのは手にするものだし、口にも入れるものですよ(笑)
-: 確かに(笑)。口に入れますね。
多田:そういう意味で、特に初期的段階においては、うつわとおもちゃはそっくりですよ。だからこそ、
いいものを選んであげたい。親は、よりナチュラルなものを我が子の為に選んであげるべきじゃないか
なって思うんです。
-: あの独特な木の香りとか木のタッチ、これは感覚として残りますよね。
多田:残ると思います。杉ってね、柔らかいし温かいんです。この床も、普通12ミリか厚くても16ミリの
ところ、ここは30ミリのものを使っています。木の専門家のアドバイスでした。どうしてかっていうと、
温かさが全然違うんです。床暖房は一切要らないです。
パパが帰る理由を探しはじめる時…
-: 足の感覚が柔らかいんですよね。見えないところにそういう工夫が隠されている。
多田:ここには日本中12箇所の杉が結集しています。そして今は、杉で作ると、どれだけ赤ちゃんにとっ
ていいのかっていう社会的実験をしている最中なんですよ。埼玉大学の研究チームにここを効果測定して
もらったんです。普通の子育て支援センターA、Bの二つのグループとうちで比較しました。3者比較です。
驚いたことに、すべての点でうちが優位に立ったんです。一番びっくりしたのが、赤ちゃんが泣かないこ
と。ちょっとの差じゃなくて、圧倒的に泣かないという結論を大学教授が出しました。「なんで、木に囲
まれていると泣かないんだろうねぇ」なんて言ってました。二つ目が、パパの滞在時間が異常に長い。
-: (笑) チャンスさえあれば、こういう場所からはすぐ逃げ出そうとするのが父親なんじゃないですか。
飽きるの早いし。
多田:そうそう、こどもに媚びているような空間っていうのはパパ、逃げ出したくなっちゃうんですね。
一生懸命帰る理由を探し始める。
-: 何かを売ろうとしているわけでもないし、この場所のつくりが子供の視点から始まっているから?
多田:あと、大人だって気持ちいいんですよ。だから、多分パパたちは、子供のためにっていうのは忘れ
ている。あと、可笑しいのは、ママたちが一切携帯をいじらない。赤ちゃんが目をキラキラさせながら遊
ぶ風景になるから、そっちに目を奪われてしまっている。時々ね、スマホを取り出すんだけど、それは撮
影のため。木のある風景っていうのは写真撮りたくなるものなんだ。写真はバックグラウンド大事でしょ。
大人も子どもも変わらない
-:うつわも似たようなところあって、別に子ども用のうつわというものがなにか特別なものなわけでは
ないんです。勿論子どもが使うんで、少し小さかったり、倒れづらかったりってことはあるんですけど、大
人にとって使いやすいものは、子どもにとっても使いやすい。そしてその逆もまた然り。こうやってご飯
茶碗あるでしょう。大人って勝手なもので、たいてい男の子はこういうの喜ぶだろう、女の子はこういう
の喜ぶだろうって思いこんでいるんです。逆に、これは少食の大人の方用に、なんて思って作ってみたも
のなんですが、意外と子どもが選ぶ。そういう時は、あまり子どもの感性を決めつけちゃいけないし、
こっちからは子ども用、こっちからは大人用、なんていう線も引きすぎないほうがいいのかなって反省し
ます。それこそ、おもちゃ美術館でも大人はハッピーになることできるし、そういうほうが自然なんです
よね。父親の居心地がいい、っていうのは顕著な例ですね。
多田:パパも結構疲れていますからね。空間を作ってあげたほうがいいと思うんです。この赤ちゃんサロ
ンを作るとき、最初にデザイナーと私とここの担当者たちでチーム作って、どんな赤ちゃんサロンを作ろ
うかってキックオフ会議をしたんです。最初のビジョンがデザイナーたちに影響与えますから、大切な集
まりです。で、僕が最初に提示したテーマは、内装の徹底的な木質化だと。それもオール杉。杉は赤ちゃ
んのことを幸福にするっていうのは色々な方のお墨付きだと。そして、デザインのコンセプトは枯山水で
いくよと。だから石庭じゃなくて木庭でいくからねと。最初はデザイナーもちんぷんかんぷんで「なんの
ことなんだ?」「多田は急に何を言い始めたんだ?」って顔してた(笑)。
-: 今までにない発想なんですね。
多田:枯山水の発想がでてきたのは、だいぶ前に京都の庭園にちょっとふらっと行って、枯山水の庭を10
分くらいボーっと見ていて、適当に一時間くらい一周してまた戻ってきたときなんです。そうしたらね、
一時間前にいた女性たち3人がまだいたんですよ。あ、この人たち一時間見ているんだ。女性は枯山水の庭
を一時間見ていられるんだ。そうか、これが女性を癒すんだって。疲れ気味のママたちは枯山水だと(笑)。
という風にポイントを得たんですよ、その時に。
-: どこにヒントがあるか分からないし、今の話なんか聞くと、大人も子どももないっていう部分も多い
ですね。
多田:子どもの施設なのに枯山水っていうのはありえないですよね。わたしは、ママのほうも大事だと
思っているんです。赤ちゃんはひとりで来るわけじゃない。連れてくるママたちが「あそこ、良いわよ
ね」「あそこ、行きたいわよね」って思ってくれるような場所を目指しました。ママにとって居心地が良
い場所は、赤ちゃんにとっても一緒なんだと思う。
-: お母さんが幸せな気持ちでいることを、赤ちゃんは一番感じるはずです。お母さんの心の安定、安心
というのも赤ちゃんに伝わって、泣かない、ということにつながってくるんですね。子どもが一番いやな
のはお母さんがイライラしていたり、怒った顔をしていたりすること。お母さんがハッピーなら、こども
もハッピー。目の付けどころ、さすがですね。おもちゃ美術館を立ち上げられた多田さんのお父様からの
影響ですか?
多田:いやいや、我が家ではうちの父親は教育ほったらかしだったから(笑)。よそでなに教育のこと、えら
そうに語ってんだよ、うちのことはほったらかしじゃんかよ、って子どものころ思ってました。今は、僕
が自分の子どもに言われていますよ(笑)「お父さん、また偉そうなこと言ってくるんでしょ」って。
-: (笑) 小さかったころ遊んでいたおもちゃを思い出すことありますか?
多田:ほとんどありませんね。野球少年だったので。ランドセルを家に置いたら、空き地で太陽沈むまで
野球やっていて。雨の日は仕方ないからレゴブロック。ボードゲームも流行っていたから、ダイヤモンド
ゲームやら、人生ゲームやら。みんなで楽しくさいころ振ってゲームやることが多かったですね。
おもちゃもうつわも応援団
-: 多田さん、よくおっしゃっていますが、おもちゃとかなんとかっていうのは、多世代、友達との交
流の媒介であるんだと。やはり主役はおもちゃじゃなくて、「遊び」という行為だったり人だったり。大
きく賛同します、その見方。
多田:おもちゃもうつわも、一緒だと思いますよ。おもちゃの場合は遊びのささやかな応援団であってね。
で、あまり、食卓でうつわが威張り散らしたら駄目ですよね。食材ですよね、主人公は。うつわが食材に
勝っちゃ駄目ですもの。応援団という立ち位置は似ているんじゃないですか。
あそびの黄金時代
-: 人と人が交流するための媒介としてのおもちゃ作りの中で、おもちゃ作家の方々に対して求める
こと、あるいはおもちゃを選ぶときに大切にされていることは何かありますか?
多田:できるだけ、シンプル。なるべく贅肉をそぎ落としていくような、そういうおもちゃが好きです。
ただそれは、おもちゃ作家にとって一番厳しい注文なんですね。
-: シンプルなものは全部が露わになりますからね。
多田:力のある人はどんどんそぎ落としている。
-: こちらのおもちゃ見るとですね、もちろんあたたかい。でも、あまり子どもをスポイルするようなお
もちゃはないですね。子どもが色々自分で考えないと分からないし、自分で体動かさないと、遊べないも
のが多い。そういうことも気にされているのかなって感じました。
多田:0歳から6歳のあいだが、遊びの天才の時期なんですよ。次が6歳から、まあ頑張って12
歳くらいかな。これが人生の中で遊びの黄金時代。それで0歳から6歳がスーパー黄金時代ですよ。この時
に遊びの天才たちに天才振りをはっきさせるようなおもちゃじゃなきゃ駄目なんです。天才たちを腑抜け
にするような道具を近づけてはいけない。じゃあ腑抜けにさせるものってなにかっていうと、この天才た
ちが手も使わなければ、頭も使わない、おもちゃのほうでレールをひいてくれるようなものです。そうい
うものって天才たちが腑抜けになっていくんですよ。ところがね、積み木だとかレゴブロックみたいなも
のって、なんの手厚いケアもしてくれない。自分で手を伸ばして、さて何作ってやろうか、どんな大きさ
の家作ろうかってね。道具のほうに自分から攻めていかないと。楽しさは相手からやってきませんから。
ハイテク玩具は逆だから。それが憎たらしいほど楽しい(笑)。車のカーナビも一緒でね。カーナビなんかつ
けちゃうとみんな腑抜けになりますよ。僕も迂闊にもナビつけちゃったから腑抜けに。
-: 地図、読めなくなりますよね。
僕ね、本当は地図見るのが大好きな人間だったんですよ。結構自信も持っていたしね。地図さ
えあればどこでも行けるって。いまはその力も激減。それと似ていますね、いまのおもちゃの話は。あと、
ETCなんてものもつけると、時々ETCのない高速道路にぶち当たると、窓開けて、財布捜して、お金出して
払うことがものすごく面倒くさく感じる。
-: パニックですよ。お金足元に落としてみたり・・・(笑)
多田:つい10年位前まで、当たり前のようにやっていたことがちょっと腑抜けにされちゃうと、すぐ難儀
になってきちゃうんだよね。それと一緒。だから天才の時期には天才に相応しい遊びをさせないと、天才
たちに失礼なんですよね。
-: 芽を摘むのは簡単ですものね。育てる上で、提示する選択肢には気を使ってあげないといけないので
すね。
多田さんとのお話はまだまだ続きます。
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