ガラスとの出会い
花田:鷲塚さんは、どのようにしてガラスのうつわの仕事に取り組むようになったのですか。(以下花田-)
鷲塚:まず、吹きガラスという技法が好きでした。
で、基本的に吹きガラスは器を作るための技法なので、自然と器の方向に向かっていきました。
-:吹きガラスを好きになったきっかけは何かあったのですか。
鷲塚:20代前半で、何かを探している時期でした。多分なんでもよかったんです。
何かを自分で見つけて、それに打ち込みたかった時に、たまたまガラスに出会い、吹きガラスを知ることになった、そういうことです。
-:その吹きガラスをここまで続けてこられました。
鷲塚:始めたら、上手になりたくなるものです。
そうなると、器のことも探求していくし、ものづくりに対して、自分なりのテーマを、見つけたくもなってくる。
それを続けていくと、今度は自分の行為をビジネスと結びつけることが必要になってくる。
好き勝手に作っていてうまくいくわけでもないですし、ニーズがあるものや、ありそうなものに対して、自分が蓄積したものを提供するという方向転換も必要で、そんなことをしながら、今に繋がってきているという形です。
-:着々と前進されてきたのですね。
鷲塚:最初は何だって難しいですよね。
その難しかったことを、ちょっと簡単に感じる瞬間が、必ずフェーズ毎にあるのですが、それを一回味わうと、もう止まらなくなりますし「もっともっと先に進みたい」という気持ちになります。
イギリス、富山へ
-:技術などは、どのように学ばれたのですか。
鷲塚:大阪の講座に通った後、イギリスの大学のガラス科に編入しました。
-:イギリスを選ばれたのですね。
鷲塚:日本に、今ほど選択肢がありませんでしたし、ガラス自体が海外から入ってきているものだったので、吸収することも多いだろうと。
-:学校はどうやって見つけたのですか。
鷲塚:どうやって見つけたんですかね。
-:(笑)
鷲塚:確か、日本で留学本なんかを読みながら、イギリスの中で1番施設が充実していそうな学校を選んだはずです。英語もほとんどできないのに(笑)。
-:期待通りの場所でしたか。
鷲塚:集中して打ち込めました。授業形式は少なくて、自分でスケジュールを組んで、1つの課題に取り組む形が主です。
-:そして富山ガラス工房に入られます。
鷲塚:工房のものも作りますが、個人的なものは大体自由に作れるので、色々試行錯誤していました。
やはり最初は「人との違いを出さないと意味がない」とオリジナルみたいなものを求めていました。だから、かなり遠回りしたんじゃないかな。
過飾もありましたし、足し算志向でした。自分の技術を試したくもなるし・・・。
でも今思えば間違ったことも色々していましたよね。
-:間違ったこと・・・。
鷲塚:装飾そのものがいいとか悪いではなく、他の作り手との違いを出すための加飾というのは、答えではないです。
器としての機能性や意味があるのなら、やるべきですが、そういう理由ではないので、結局要らないものですよね。
それに気がついて、今のスタイルに辿り着きました。元々シンプルなものが好きでしたし、すぐにしっくりきました。
日用品のレベル
-:ガラスのうつわを作る上で、大事にされていることを教えていただけますか。
鷲塚:あくまでニーズありきで、それに対して答えていくというスタイルは、これからも守っていきたいです。
これまで積み上げてきた技術や知識のお披露目の場所ではなく、それらを役に立てるということです。
それと、僕は手仕事の人と競争したいわけではなくて、量産品のお客さまが、もっとこっちに来てくれることを望んでいます。
-:量産品にも、いいところはあります。
鷲塚:かたち、大きさも、もちろん揃っているし、形を作り出すまでの過程に予算がかけられる分、つくりが練られていますよね。
そういう点はすごく勉強になりますが、その分、中間を取るので、ぼやけた感じにはなってしまいます。
-:最大公約数です。
鷲塚:たくさん売る必要があるから、どうしても中心を取ってしまいます。
手仕事の場合、狙っているサイズ感は同じでも、その中に選択肢があるというか・・・そういうちょっとした幅は強みだろうなと。
手の跡や道具の跡といったものは残っているものですよね。
そして、手仕事には「作り手が、手にした素材を使い切った」という伸びやかさのようなものを感じます。
例えば、こういうグラス1個作るのにも、工業製品だと倍ぐらいのガラスが必要で、その中から一部を切り取って、仕上げます。
吹きガラスの場合は、このサイズに必要な量のガラスだけを取って使い切るので、目一杯その形に持っていくという中でその伸びやかさや、ある時は緊張感も生まれるんじゃないかなと思っています。
-:最初に拝見したときから、鷲塚さんのお仕事は変わらないですね。
シンプルで、押し出しも強くなく、とても丁寧に作られているなという印象です。
鷲塚:僕は、日用品のレベルを上げていきたいと思っています。
持ち帰った人が、その次の日から僕のガラスが気にならないくらいに馴染んでいけば、それはいい日用品なんじゃないかなって。
「大体」で終わらせずに
-:今後について考えていることはありますか。
鷲塚:器にはそれぞれルーツがあって、生き残っているフォルムがあるので、 そういうものをきちんと掘り起こした上で、これまで通り作っていきたいです。
作れば作るほど、ちょっとしたことが大事になってくるので。
-:ちょっとしたこと・・・。
鷲塚:例えば、コップにしても、何も考えないと「まあ、こんなもんかな」って「大体」で作ってしまうし、そうなると雰囲気も「大体」になってしまいます。
それなので、古いものなどでも、自分で綺麗だなと思うフォルムを表面的になぞるだけでなく、それを自分の中であらためて組み立ててみて、その上で世界観を築いていきたいです。
-:世界観は、すでにできつつある気はしますが。
鷲塚:いや、まだ途上で、全然、足りていないです。自分の感覚でだけではなく、時代の中で評価されているものを、ちゃんと形にしていきたいです。
そういったものを残すためには誰かが作らなければならないわけだし、バトンを渡すような感じで作れたらいいなと思っています。
普通にライバル
-:今バトンの話が出ました。鷲塚さんも、後輩のほうが多い世代になってきました。
憧れや目標の対象にされる立場ですね。
鷲塚:すでに追い抜かれていますよ(笑)。
-:「鷲塚さんみたいに、きれいな形が作れるようになりたい」とお話しされる作家さん、多いですよ。
何かアドバイスは・・・
鷲塚:いや、ないです(笑)。自分も、ずっと現役でいたいので。普通にライバルですから。
後輩とか言って、可愛がっている場合じゃない(笑)。偉そうにするつもりもないし、同じ立場で競争していたいです。
-:まだまだこれからですね。
鷲塚:はい。技術だけでなく、思考も、アップデートして、仕事の仕組み作りも、もっと進めていきたいなと思っています。
どんなかっこいいこと言っていても、生き残らないと意味ないですから。
なんというか、もの作りって、いいものを作るコンテストでは無いんです。
あくまで、生き残りゲームです。カッコつけている暇ないです(笑)。
自分なりの答えを展示会で
-:展示会、宜しくお願いします。
鷲塚:食器のルーツを調べて、今の時代に合うものというテーマに対しての自分なりの答えを展示会では出したいなと思っています。
-:楽しみにしています。よろしくお願いします。