吉岡将弐さん作者インタビュー2024


みんな楽しそう

花田:吉岡さんは焼き物の産地である砥部で生まれ、育ちました。(以下花田-)

吉岡:祖母が鋳込みのパートをしていましたし、近所や知り合いは焼き物屋さんだらけでした。
夏休みなんかに作らせてもらうこともありましたし、焼き物をしている人がみんな楽しそうにしていて、中学の頃から染付の仕事をしたいと思うようになりました。
で、高校卒業後、九谷に来ました。

-:なぜ九谷だったのですか。

吉岡:砥部には学校がなく、九州で習ってくる人が多いんです。
それなら、みんなと違う方がいいなと思って。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

九谷へ

-:九谷の研修所のあと、妙泉陶房に行かれました。どのように入社されたのですか。

吉岡:研修所を通じて応募し、面接を受けました。当時は自動車免許も持っていなかったので、7、8キロ歩いて行ったのを覚えています。
僕が入社したのは創業20年目くらいで、兄弟で始めた頃の話も面白く聞かせてくれました。
ちょうどそのタイミングで、宮内庁の仕事もしていて、本当に大変な思いをして描いているのも見ました。とても貴重なものを見せていただいたと思っています。

-:色々なことを経験されたのではないですか。

吉岡:あぐらに慣れるのは大変でしたが(笑)、今思えば、環境には恵まれていた気がします。
定時の仕事時間ですし、待遇も悪いわけではない。今の方がよっぽどひどい目にあっているかも・・・。
仕事もどれだけやっても終わらないし(笑)。
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-:何か印象に残っていることはありますか。

吉岡:とんでもない大きさのお皿があって親方1人でほとんど絵付けするんですけど「吉岡、ちょっとここ描いてみるか」って描かせてもらったことがあります。
左手で抱えて描くんですけど・・・。まあ、僕、身体もでかいですし、ブラスバンドなんかで体が大きいとコントラバスとかチューバやらされる、みたいな(笑)。

-:いえいえ、腕を見込まれてのことと思います(笑)。

吉岡:親方が真ん中に龍を描いて、その周りの小紋を描かせてもらいましたが、親方がだいぶ描いた後に僕の手を加えるので、プレッシャーはありました。

-:台無しにしてしまう可能性もあるわけです。

吉岡:ホントです。もしそうなっていたら、ほんとやばかったです(笑)。
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染付に取り組む

-:仕事は徐々に任されていくのですか。

吉岡:ロクロ線や枠線からですが、最初はそれすら難しいです。
その次に周りの絵です。濃み(だみ)は親方の奥様とパートの方の二人で、僕らが線描きしたものを全て塗ってしまいます。

-:速いのですね。

吉岡:あのスピードで濃みをするというのは、相当難しいと思います。線と違って、失敗すると流れていくので取り返しがつきませんし。

-:筆はどのようなものを使うのですか。

吉岡:線を描くものとは違うとても太い筆で、広いところも細いところも同じ筆でシュッシュッって。
とにかく色塗りは全く別です。

-:分業が徹底されている中で、吉岡さんの目指すところはどういったことだったのですか。

吉岡:「これでいいよ」と言われるまで、一生懸命頑張るというだけです。
任せてもらえるような線が引けるよう、仕事をし続ける。
妙泉では1つのものを何人かで仕上げていくので、個人としてうまくなるというよりは、違和感なく1つのものを仕上げられるように、みんなで頑張ろうという描き方でした。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

-:吉岡さんにとって良い染付とはどのようなものなのでしょうか?

吉岡:基本的なことではありますが、絵具が表面にとどまらず、素地に吸い込まれていることが大事だと思います。

-:まさに染め付ける、ということですね。それは線でも濃みでも一緒ですか。

吉岡:濃みの方が、意識の持ちようで変わりやすいと思います。
描き方だけでなく、素焼きの温度なんかも、親方は色々考えていたのだろうなと後から気づきました。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

九谷青窯にて

-:続いて、九谷青窯に入社されました。

吉岡:一度独立して絵付けだけで仕事をしていたのですが、素地も自分で出来たほうが良いと思い、妙泉の親方に相談したら青窯を紹介してくれたんです。ありがたいですよね。
しかも、青窯に入社してから何ケ月か経った時に「無事でやっているか」って顔を出してくれて・・・。感謝の言葉しかありません。
ただ、あの時の僕は本当に何にも分かっていない未熟者で、当時はしてもらって当たり前だと思っていました。
人を育てたり、面倒を見たり、ということが、どれだけ大変なことか知ったのは、あとからです。

-:青窯はいかがでしたか。

吉岡:青窯は分業ではなく一人ですべて仕上げるので、例えば土練機が空くのを雑誌を読みながら待っている人がいたり・・・、自由でした。
とにかく「ああしろ、こうしろ」というのが全く無いんです。
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-:腕のいい先輩たちは沢山います。教えてもらえるのではないですか。

吉岡:いや、教えるということはほぼない(笑)。
まあ、聞けばちょっとは教えてくれるかも、という程度です。

-:秦さん(九谷青窯主宰)も、手取り足取りというタイプではなさそうです。

吉岡:全く。でも秦さん、短い言葉で色々伝えてくれます。
「失敗するな」とか「仕事中に練習するな」とか・・・。
練習は仕事じゃない、ということです。あと「手間は金にならない」とも。
手間を掛けさえすればよいものが出来るわけでも、値段を上げられるわけでもないって。
「一生懸命作りました、だから高いんです」なんて絶対通用しないっていう。
まあ、ごもっともなんですけど、僕は手間をかけることしかできないので、その上でその言葉の意味をちゃんと理解したものがいつか作れればいいな、と思っています。
それと「新しいもの(新作)を出せ」ともよく言われました。
その中から、良かったものと悪かったものに振り分けられて良いものが残っていく。
だから、大変だろうけど新しいものを出し続けろ、ということなんですよね。

幻の・・・

-:青窯で最初に作ったものを覚えていますか。

吉岡:平皿に千鳥かなんかを描いて当時の青窯っぽいものを作ろうとしたのですが、今見たら、相当ひどく見えると思います。

-:世には出たのですか。

吉岡:いや、出していないです。

-:幻のデビュー作ですね。見られずに残念です。

吉岡:いやもう、幻にしておきたいぐらいの代物ですよ(笑)。

-:最初に世に出たうつわは何だったのですか。

吉岡:丸文のうつわです。当時は作る数も多かったので、そのおかげで手も慣れました。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

選ばれるものを作る

-:妙泉では技術や心構えを学ばれました。
青窯ではゴールとして「プロとしてやっていけるように」というのがあると思います。

吉岡:当時は上手くさえなれば、仕事ぐらいあるだろうと気軽に考えていましたが、青窯では「うまくなる」というよりは「いいものを作る」「選ばれるものを作る」ということに意識が向かった気がします。
そのための資料として骨董などに初めて触れさせてくれたのが青窯であり秦さんでした。

-:タイミングを見て、見せてもらうのですか。

吉岡:いや、その辺に無造作に置いてあります。
あとは、奈良の国立博物館やら東京のお店やら、色々連れて行ってくれました。

-:秦さん、花田にもよく青窯の若い人を連れて来てくれていました。

吉岡:そのうち、自分で青窯の後輩と台湾の故宮にもいきました。
そうやって自主的に見る機会を持つようになったのは、秦さんのおかげです。
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吉岡さんだからこそ

-:お話を聞いていて、妙泉の山本さんにも、青窯の秦さんにも「育てる」意識を強く感じます。

吉岡:タイプは全く違いますけど、二人とも、とにかく面倒見がいいです。
僕が初めて花田さんで個展をさせてもらった時も親方は花を送ってくれました。秦さんも褒めはしないけど実は見守ってくれていて、それがすごく有難かったです。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

信じて続けること

-:吉岡さんは、クラシックなものも、ポップでカジュアルなものも作られます。
以前も、どちらかだけが好きなわけではなくて、両方を作っていきたいんだと伺いました。

吉岡:何が好きかと言えば、やはり「染付」です。
それであれば、求められた中で、自分の知っていることや出来ることを活かしながら精一杯のことをしていきたいです。

-:吉岡さんが、うつわを作っていく上で、大事にされていることはありますか。

吉岡:存在することで、家での食事が楽しみになるような食器を作っていきたいです。
家でご飯を食べることが楽しみなら、気持ちが暗くならないですよね。

-:作る上では、いかがでしょうか。

吉岡:今まで学んだことを自分なりに実践し続けています。
以前、先輩に「ろくろの削りの最後の高台の角の面取りを一周で終わらせろ」と言われました。「潔さ」なのかなと感じました。
或いは「シュッと描いたような線をゆっくり描いてごらん」とか・・・。
聞いた時、納得感があった言葉が、いくつかあるのですが、そういうことを自分の作業の中に入れていけば、ものがそういう雰囲気をそなえてくるんだろうと。
その道筋が自分の中できれいに整理されているわけではありませんし、それが使ってくれている人に伝わっているかどうかも分かりませんが、そう信じて作り続けています。

-:信じて続けられている吉岡さんを尊敬します。

吉岡:いや、本当に関わってきた人たちが良かったので、楽しんで作業できています。本当に、面倒を見てもらいましたから。
今度は後輩にとって自分がそうならないといけませんね。
吉岡将弐さん作者インタビュー2024

相談しなければよかった・・・

-:これからやっていきたいことは、ありますか。

吉岡:雰囲気の違う釉薬を新たに考えています。
全体の印象も大きく変わると思いますし、より良いものが出来ればいいなと思います。

-:具体的にはどのような材料を考えているのですか。

吉岡:天然の灰を考えていたら「その時によって物が違うからコントロールしづらいよ」って言う先輩もいるし「一生分を一気に買うなら天然でいいんじゃないか」って言う先輩もいる・・・。
「一生分なんて確保できないから、合成でやろうかな」と思っていたら「え、吉岡さん、合成使うんですか」って後輩に馬鹿にされるような言い方されるし。
相談しなければよかったです(笑)。

-:(笑)。
楽しみにしています。

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