枯白 乾喬彰さん、乾直実さん 作者インタビュー2024


長く使えるもの

花田:乾さんが現在の仕事を選ばれたのは、木工家であるお父様の影響もあるのですか。(以下花田-)

乾喬彰:生まれた時から糸鋸がすぐそこにある環境でしたので、影響はあると思いますが「木工がしたい」というよりは「長く使えるものを作りたい」という気持ちが強かったです。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024 ただ元々は、デザインやコマーシャルに興味があったので、美術大学のデザイン科に進学したんです。
でも、大学入学後、町にあふれているデザインが「使い捨てにされるもの」に映り始めて・・・。
例えば、スマホは次々と買い替えていきますよね。
そういうものを、アドバタイズすることに違和感を持ったことが「長く使えるもの」へのきっかけです。

ドイツにて

-:大学時代、ドイツに留学もされていました。デザインの勉強をされていたのですか。

乾喬彰:当時、写真にすごく興味があったので、写真の勉強をしていました。

-:じぶんのやりたいことに素直ですね(笑)。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾喬彰:ただ、やはりドイツ語が出来ていないと、授業は、理解できないですよね・・・。

-:ドイツ語が分からない状態で行ったのですか。勇敢ですね。

乾喬彰:まあ、写真は自分で撮って、自分で現像して、自分で写真集作って・・・ってできますから。

乾直実:最初、家が無かったよね。
留学したのに、住む家が無いんです(笑)。

-:行く前に住む場所を確保しなかったのですか?

乾喬彰:できることなら僕だってそうしたいですよ(笑)。
でも、ミュンヘンて本当に空き家が無くて、ユースホステルに3カ月位いました。
その後、やっと家を見つけて、内見しに行ったんです。
屋根裏部屋みたいなところでしたが、そこの階段の昔からの手すりがまた良くて・・・。
木ならではの、あの長く使われた優しい感じ・・・。

-:家が見つからないのに、手すり見て喜んでるって・・・(笑)。
いずれにしても行く先々で刺激を受けていたのですね。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾喬彰:教会の木の扉も、かしめている鉄が、いい風合いに錆びていたりして・・・。
そういう物が風景になじんでいるんです。
蚤の市にもよく行っていましたが、古いハンガーなんかも出品されていて・・・。
ツヤツヤでね。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

-:それで、ハンガーを作るのですね。普通、そんなに作らないですよね。

乾直実:ニーズが無いですから(笑)。

乾喬彰:独立して最初に作ったのがハンガーでした。
色々なかたちのハンガー・・・。全然売れませんでしたけど(笑)。

-:(笑)。すみません、笑ってしまって。
今は動いていますよね。

乾喬彰:はい。今は意外と売れています。

乾直実:「売れる」「売れない」抜きで、やりたいことをやっているのが良いのかなとも思います。

乾喬彰:展示会をしたところで、お客さんがたくさん来てくれるわけでもない。
そういう状況がずっと続いていました。
それでも、最初から自分たちの作りたいものを作るということを続けさせてもらって・・・。
最近、他の作家さん達と話す機会があって、自分達が大分わがままをしていたことに、やっと気が付きました(笑)。

「枯白」

-:「枯白」という名前が印象的です。

乾喬彰:「枯」は、風化していく良さ・・・でしょうか。

乾直実:調べてみると「そぎ落とされて残ったもの」という意味もあることが分かりました。
「その意味、したいことに近いね」という話になって。

乾喬彰:「白」は「物事の始まり」や「まっさら」という意味もあるようで、それがうまく当てはまりました。

計画、無計画

-:枯白にとって、喬彰さんと直実さんの協働であることも大きな要素です。

乾直実:彼は、まずイメージや計画を持って、そこに向けて頑張るタイプだと思います。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾喬彰:僕はデザインの勉強をしてきましたが、直さんは彫刻だったので、一点をつくりあげることをずっとしてきたわけです。
感動して作る強さは彼女のほうが強いと思います。

乾直実:「無計画の中で生まれる」みたいなことでしょうか。
自分が意図していないことに出会えた時に嬉しさを感じますし、それに出会うために作業しているようなところもあるのかなと。
それは計画できないです。

乾喬彰:しないね(笑)。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾直実:「それ、いつできるの」って聞いてくるよね。
私は「分からない」って答えます(笑)。

-:それぞれの持ち味が「枯白」のもとで活かされているのが素晴らしいです。

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乾直実:どちらか一方の持ち味に行きすぎずに寄り合いながら枯白になっているのだと思います。
話すと「やっぱりそうだよね」ってゴールに行きつけるから、安心できるのかな。

乾喬彰:この間も気が付いたら、鉄の小瓶のようなものを作っていました。
聞いてみると、商品であるかどうかすら、本人も分からない。


枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

そのままで

-:モノ作りを通じて乾さん達が伝えたいことは、どのようなことなのでしょうか。

乾喬彰:「自分たち自身がワクワクするものを作りたい」とずっと思っています。
そして「美しいね」「これって、面白いよね」といった感覚をお客さんと共有したいです。

乾直実:お客さまからの言葉がきっかけで作ったものが「新たな扉を開いてくれた」と思えたこともありました。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾喬彰:それと、木を格好よく見せたいというよりは、木のそのままを見せたいです。
木が白くなっていたり、朽ちていたり、木材屋さんに転がっている木でも「めっちゃ格好いいな」と思うこともあります。

乾直実:焦点を当てたという事実だけで完結する部分もあって、それを楽しんでいるのかな。
そのままで格好いいと思ったら、自分たちの手を加えてなくてもいいんです。

森をそのまま家の中に

-:乾さん達は制作するものが幅広いです。
カッティングボードも、ハンガーも、家具も作る。

乾喬彰:最初から、生活の身の回りのあらゆるものを自分たちの目線を通して作りたいと考えていました。

-:そして、家も建ててしまった。
これまでとは違った発想も生まれてきそうです。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾喬彰:「この家で使いたい家具って何だろう」と考えます。

-:この家は何かテーマを持って作られたのですか。

乾喬彰:自然を肌で感じられる・・・でしょうか。
昔の家は全部自然素材で、森の延長に住んでいるようなところもありました。
人は自然の中で癒されて健康になることもありますよね。
そういうところにもう一度近づきたいなと。

乾直実:この家には実験的な意味合いもあります。

乾喬彰:例えば、あのように丸太を使うことは、普通の家ではやりませんよね。
森をそのまま家の中に持ってきたような感じです。
外壁も無塗装で、色々な人に「無塗装はやめたほうがいい」と言われたのですが「大丈夫」という建築家の方に出会えて実現できました。
窓枠も無塗装なので、雨漏りが果たしてどうなのか・・・。
多分大丈夫なんですけど、答えはこれからです。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

乾直実:「ダメなら直せばいいか」って話しています(笑)。

さて、これから

-:これからやっていきたいことを教えていただけますか。

乾喬彰:去年は移転もあって、ずっと建築のことばかり考えていました。
今ようやくモノづくりのステージが整いました。

-:1年くらい離れていてよかったのかもしれません。

乾喬彰:ドラゴンボールで「精神と時の部屋」にいたみたいな感じです(笑)。
別の感覚でいたからこそ、リフレッシュして、作りたい気持ちでいっぱいです。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

-:展示会に向けても一言お願いします。

乾喬彰:棚も見てもらおうと思っています。
あと、新しいサイズで、皮を使った小さいティッシュボックスも作ります。

-:有難うございます。楽しみにしています。

枯白 乾喬彰さん作者インタビュー2024

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