中川紀夫さん 作者インタビュー2024


みんな、なんとなく焼き物に関わっている

花田:中川さんは生まれながらにして焼き物に囲まれていました。
家業としての焼き物は、おじいさまが初代ですか。(以下花田-)

中川:もっと前からのようです。
じいさんは戦争から帰ってきたあと農業(お茶畑)に転向したので、一旦途絶えていました。
そのあと、父親はじいさんの始めたお茶畑を引き継ぎつつ、素地屋も営んでいて、そのうち、窯元みたいなことも始めました。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

-:学校の同級生にも、たくさん「家が焼き物屋さん」の人がいたのではありませんか。

中川:焼き物の仕事って作るだけではありませんよね。
例えば「親が窯元の経理担当者だ」とか「親戚が陶器の商社の社長だ」とか・・・。
みんな何となく焼き物に関わっている、そんな感じでした。
僕の中では、作家然として、焼き物をかたくなに作っているというよりは、商売としての存在感が大きかったです。
町内がそういうくくりでした。
有田も近所ですし、陶器市の時にはよく遊びに行っていました。

-:おじいさまやお父さまと焼き物の話はされたのですか。

中川:そんな話をした覚えは全くなくて、どちらかというとお茶畑の印象が強いです。

-:この間頂いたお茶、とても美味しかったです。
びっくりしました。
中川さん、淹れるのも上手かったし。

中川:有難うございます。
お茶畑は知り合いが継いでいます。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

益子にて

-:学校を卒業後はどうされていたのですか。

中川:益子に行きました。
分業制の波佐見と違って、益子は大体最初から最後まで一貫制作ですから初めて見るものも多かったです。
作っているものも地元では薄手の磁器中心だったので、つちものの良さも知ることが出きました。

-:益子での経験は中川さんの焼き物観を変えたのですね。

中川:益子が無かったら親の仕事をそのまま継いでいたのではないかな・・・。

-:スリップウエアとの出会いも益子にいた頃ですか。

中川:当時の職場の先輩と駒場の民芸館での特別展示を見に行ったのがきっかけです。
その先輩、帰ってきてすぐ、仕事終わった後スリップウエアを作って遊んでいました。
気まずかったですよね・・・(笑)。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

-:気まずい?

中川:実は僕もやりたかったから・・・。
で、その先輩が独立された時に「よしやるぞー」って。

-:(笑)

中川:休みの日が来るのが楽しみでした。
勤め先の親方も材料買ってくれて応援してくれました。
今でも感謝しています。

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親方

-:いい親方ですね。

中川:寛大で融通の利く親方でした。
それと親方は良し悪しをはっきり言う人でした。
皿の縁の厚みなど、細かい部分での具体的な話から、日ごろの考え方など色々です。
「我々凡人は、日頃からいいものを見る習慣をつけておいたほうがいい」ともよく言われていました。
休みの日に東京の美術館に車で連れて行ってくれたり・・・。
この間も、親方が引退のタイミングで、波佐見に遊びに来たんです。
「紀夫、元気にしてるの?」って。
益子から一人で車運転して・・・。

-:それはすごいですね。

中川:寄り道しながらですけど、まああの人、一匹狼みたいなところ、あったから。
「やっぱりいいもの見るようにしていないとねえ」って言っていました。

-:言うこと変わらないですね。

中川:僕も変わらず「そうですよねえ、そこは大事ですよねえ」なんて答えていましたけど(笑)。
作りを名品に学ぶということもあるし、あと目を鍛えるというか・・・。
まあ、目ばかり鍛えていても仕方ないんですけど(笑)。
いずれにしても、最初は古いモノの模倣でいいと思います。

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スリップウエアの持つアンバランス

-:中川さんにとって、スリップウエアの魅力は何ですか。

中川:最初は模様に目が行きがちでしたが、今思えば、スリップウエア全体が醸し出す雰囲気に魅かれているんだと思います。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

-:その雰囲気とはどういったものなのですか。

中川:骨董品の使い込まれた良さもありますが、それだけでもなくて「不思議な感じのうつわに、なぜこのような線が入っているのかな」という、僕にとってはアンバランスな部分です。
オーソドックスなものも好きですけど、最近は赤いものも好きです。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

ああいうノリ

-:うつわ作りをする上で中川さんが大事にしていることを教えてください。

中川:普段使いに適した「大きさ」と「かたち」です。
個人的には普通の丸や四角が好きで、その上で、六角やリム付きのものも受け入れていってもらえると嬉しいなと。
大きさについては、具体的な寸刻みの寸法をいきなり持たず、まずは普段から使うことで感覚を持とうとしています。
今気に入っているのは古いスリップウエアの大きさを参考にしたこの皿です。
中川紀夫さん作者インタビュー2024 深さといい、径といい、R(立ち上がりのカーブ)といい絶妙です。
中川紀夫さん作者インタビュー2024

-:ご自身で使うのは、大体スリップウエアですか?

中川:はい。
それと父が作ったものも使っています。

-:中川さんは絵皿的なものも作られています。

中川:はい、たまには。
獅子などあまり格好よくない動物をイメージしています。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

-:ああいうノリですね。

中川紀夫さん作者インタビュー2024

中川:抜け感があるものが好きです。
緻密な絵付けやキラキラな、ハレの日のうつわみたいなものは、自分からは出てこないです。
勿論すごいとは思います。
名品にしても骨董にしても好き嫌いはあるわけで、本当に全部が好きな人って、いないと思います。
趣味じゃないものは趣味じゃない。
古い柿右衛門だってすごいです。
でも「すごいですね」としか言えない。

これからのこと

-:これからやっていきたいことはありますか。

中川:うちの持っている山の上に、昔共同で使っていた登り窯があるので、活用していきたいなと思っています。

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-:楽しみですね。
4月の展示会、宜しくお願いします。

中川:宜しくお願いします。
スリップウエア中心で、レッドウエアや窯変のうつわも出したいと思っているので、ぜひ見て頂きたいです。

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