作り続けた幼少時代
花田 三留さんがガラスのうつわ作りに取り組むようになるまでのお話を聞かせてください。(以下花田-)
三留: 「作る」ことがずっと好きでした。「ワクワクさん」て、ご存じですか。
「つくってあそぼ」という昔のNHK番組に出てくるそのワクワクさんが、色々作るんですけど、それを次から次へと真似ていました。
-: 沢山作っていたのですね。
三留: 料理も・・・。
-: 「作る」って、そっちもですか。
三留: 振り返ってみると「何を」と限らずに「作る」という行為自体に楽しさを感じていたのでしょうね。
小一の時には玉子焼きにはまって、母に教わって毎日のように作っていました。そのうちクッキーも。
-: 他の「作る」は何かありましたか。
三留: 裁縫も好きで、手提げやらポケットティッシュケースやら・・・。
工作も好きで、クローゼットの中に棚を作ったこともありました。
-:
ワクワクさんは、三留さんじゃないですか(笑)。
中学校でもそれは続くのですか。
三留: 中学ではテニス部活をやっていたので、作ることは少し減りました。
テニスは結局、大学卒業まで続けていました。
-: 何事にも手を抜きませんね。
三留: ひとつの事を続けるのが好きみたいで。追及していくのが楽しいです。
-: そういう自覚もお持ちだったのですね。
三留: いえ、意識もしてなかったので気が付いたのは割と最近です(笑)
義務感でもないし、無理しているわけでもないのですが「頑張ること」が好きなんだと思います。
「ゆるくやろうよ」みたいな風潮に憧れるときもありますが、私は結局「限界まで頑張る」のが心地いいです。
舞は作り続けろ
-: 大学は美術大学に進学されます。
三留: 子どものころ、いつも何かを作っている私を見て、年の離れた姉二人に「舞は美大がいいよ」と言われていました。
-: 「舞は作り続けろ」と(笑)。
三留: どういうものかも分からないまま「私は美大に行くものだ」と思い込んでいました。
姉の方が絵は上手かったと思うんですけどね(笑)。
-: で、工芸科に。
三留: 工芸は、構想から製作まで自分で完結できることころが魅力です。
-: なぜガラスを選ばれたのですか。
三留: 1年目に一通りの素材を経験させてもらう中で、ガラスが1番楽しかったので・・・
-: で、吹きガラス、ムリーニを選ばれる。
三留: 数ある技法の中で、吹きガラスはスポーツ的な感覚があって、それが私に合っていました。
こちらからの仕掛けに対して、ガラスから返事が来ている感じなんです。しかも最初はあまりよくない返事がほとんどで・・・。
「全然思い通りにはならないな、これ」みたいな(笑)。
分からないながらも探っていくのが、面白かったです。
三留: ムリーニについては「可愛いな」って。全体も一粒ひと粒も。
小さなパーツを並べてひとつのモノになる所に惹かれているのだと思います。
子供の頃は、ムリーニみたいな消しゴムを集めていました(笑)
経験と繰り返し
-: 卒業後はどうされたのですか。
三留:
三留 川崎にある彩グラススタジオに10年くらい勤めました
。最初は先輩もいましたが、辞める人が重なって「あれ、一番古株はわたし?」って感じで。
そうなると、伊藤さん(彩スタジオ主宰)と関わることも増えてきて、それがとても勉強になりました。
-: 長くいると、良い事ありますね。
三留: そうですね、当時は悩むことも多かったですが、今思えば本当に良かったと思います。
吹きガラスって本当に奥が深くて、到達したと思うとまた次のテーマが出てきます。
状況でも変化したり、いろんなことを予測してやったり。鍛えられます(笑)。
「経験」がとても大切です。
-: その後、独立されます。
三留: そうですね。作って、それを見てもらう場があって、そこで見てくれた人が次の場にまた来てくれて、
で、その場で新たな人が見てくれて、その人がまた次に来てくれて・・・ってことを繰り返してきたというか・・・。
で、今です。
構想の時間
-: 三留さんのムリーニは、うつわの底に文様を配置するのも特徴の一つです。
ムリーニには様々な工程がありますね。
三留: どの工程も好きです。一つひとつ切るのも好きですし「何を作ろうかな」って構想を練る時間も好きです。
まず、全体のイメージを「空がここにあって、このあたりにトンボがいて・・・」みたいに持って、必要なパーツを決めていく感じです。
例えばトンボなら最初に絵を色々なパターンで描いて「これだな」というトンボが見つかったら、それを実際作るサイズ感に書き換えます。
サイズによって見え方も変わるので。
-: ムリーニの場合、一回間違えてしまうと、それが沢山出来てしまいます。
三留: そうですよー(笑)。
まあ「こうすると、こうなる」という学習も得られるので、仕方ないかな、だからこそ今があるって感じです。
思い出の風景
-: ムリーニの仕事において、三留さんがテーマにされていることはありますか。
三留: 小さいころの思い出に残っている風景をモチーフやヒントにしながら作りたいと思っています。
-: 小さいころに見た風景をたくさん覚えているのですね。
三留: 母がたくさん残しておいてくれている子供の頃の写真を見返すのが昔から好きで、
そうしていると記憶がよみがえってくるんです。
-:
その気持ちが、うつわに乗り移っているのですね。
三留さんのうつわを使っていて、なんだか懐かしい気分になれるのはそのためでしょうか。
三留: 花田さんの紹介文に「どこか懐かしさを感じる」書いてくださっていて、とても嬉しかったです。
「私のそういう気持ちを、うつわを見た人も持ってくれていたんだ」って。
そこに無いのに、あるような
-: 三留さんのうつわは、成形も丁寧です。
三留: 最初の頃は、底にムリーニを配置するときなどはどうしても重くなってしまって・・・。そこは苦戦しました。
お客さんに「可愛いけど重いのよね」ってよく言われていました(笑)。
ただ軽ければいいわけでもなく、ムリーニがうつわ全体にうまく映り込むように工夫も必要です。
-:
映り込みも計算されていたのですね。
かたちも直線に見えて触ると若干カーブがかかっているのもそのためですか。
三留: そうです。
全体としても柔らかい感じも出るかなと思って。
-: 真上から見るのもキレイですけど、斜め上から見ることの方が多いですし、そうなると側面への映り込みも大事ですものね。
三留: 「どこから見ても楽しい」みたいな。
懐かしい風景や気持ちがガラスに乗った時に、映り込む視覚が特に好きなんです。
映り込む視覚って、本当はそこに無いのにあるように感じるわけじゃないですか。
それがまた「思い出を持つ」ことにも似ているなって思います。
映り込みの力を借りてのうつわ作りです。
紫陽花に囲まれる(予定)
-: これからしていきたいことはありますか。
三留: 制作そのものではないのですが、今準備中のこの新しい工房を、年内中に始動させたいです。
-: 楽しみですね。
三留: で、紫陽花が好きなので建物のまわりに一杯植えて育てようって思っています。今は苗を買って準備しているところです。
今度来られた時は、多分紫陽花だらけですよ(笑)。
-:
楽しみです。
ところで紫陽花を好きになったきっかけは何だったのですか。
三留: 母の影響です。
私は神奈川で生まれ育ちましたが、子どもの頃学校行く前に、よく朝早くに鎌倉まで紫陽花を見に連れて行ってもらっていました。
紫陽花が好きなのもムリーニと同じような理由です。
小さな花が集まって丸くなって1つになっているところ。
-:
楽しいお話を色々有難うございました。
展示会よろしくお願いします。
三留: お客様には色々なところを見て楽しんでいただけたら嬉しいです。