日高直子さんインタビュー2019


日高直子作者インタビュー

付き合っているうちに…、ついて行くうちに…

花田:日高さんがうつわ作りの仕事に至った経緯をお話していただけますか。(以下花田-)

日高:12年間、アパレル業界でニットデザインの仕事をしていましたが、うつわ作家を目指すことにした夫に付き合って瀬戸の窯業専門校に通うことになったのが始まりです。
専門校終了後は製陶所で絵柄をつける仕事をしていたのですが、そのうち週末だけ、自分のうつわも作るようになっていました。
夫が作った小皿にワンポイントで絵を描き入れたりして…。
ある時、陶器市で試しに夫のものの横に鳥小皿を置いておいておいたんです。

日高直子作者インタビュー

日高:そうしたら、通りがかったおじさんが鳥の絵を喜んでくれて…。
「自分の描いた絵を人が喜んでくれることがこんなに嬉しいとは…」って驚きました。
結局、そのおじさんより、私のほうが喜んでいたかもしれません(笑)。

日高直子作者インタビュー

-:もともとモノを作ることも好きだったのでしょうね。

日高:母が骨董好きだったり、叔父が骨董商の仕事をしていたりと、そういうものが身近にあったこともあると思います。
叔父には骨董市に連れて行ってもらって「ほら、この時期から藍の色が全く変わるだろ、この頃に人工の呉須が入ってくるんだ」なんて話を楽しく聞いていました。
つられて、1000円や2000円のなます皿を買って喜んでいる二十歳でした(笑)。

祥瑞 vs.おじさん

-:もともと今の作風だったのですか。

日高:最初は古染付や祥瑞など、自分の好きな古典の模しが中心でしたが、そのまま模すと、自分がその古典を見て感じていることや、それの好きな部分が却って表現できないんです。
模しは技術的には勿論勉強になりましたが、そこに自分の中から出てくるものがないと、自分のものにはなりませんよね。

-:日高さんの今の仕事からは、模しではないけれど、古染付の気分みたいなものは伝わってきます。 古染付って動物の目つきなんかにしても、一筋縄でいかないようなところあるじゃないですか。

日高:そういうところは出したいと思っています。

-:他方、安南の要素をふと感じることもあるし、古伊万里の雰囲気を感じるときもあります。
日高さんが好きな焼き物の要素が形を変えて浮き上がってきているのですね。

日高:そうかもしれません。
そして、そうやって色々描く中で、酔っ払ったおじさんの文様を、皆さんが「かわいい」「楽しい」「ナニコレー!?」って喜んでくれて…。

-:酔っ払ったおじさんを「楽しい」って思う日高さんの気分が共有された瞬間ですね。

日高:わたしだったら、こっちが合っているってことです。

-:「こっち」って「おじさん」のことですか?祥瑞よりおじさん…(笑)。

日高:えぇ(笑)。

日高直子作者インタビュー

「おじさんしか描かない」わけではないけれど…

-:どうやって、おじさんに行きついたのですか。

日高:父が6人兄弟の長男で、お正月は親戚一同大集合でした。
みんなでお酒飲んで、凄い酔っ払って、好きに歌ったり、勝手に寝たり起きたり…、
その状況を子供ながらに「楽しそうだな」って見ていました。

-:日高さんはおじさんが好きなのですね。

日高:親戚の叔父たちが―初めての姪だったというのもあるんでしょうけど―とても、
かわいがってくれて…。
そういうことでイメージが良いのかもしれません。

日高直子作者インタビュー

-:おじいさんでもなく、おにいさんでもなく…おじさん。

日高:自己中心的で、楽しいことに素直で、ゆとりがあるのか、ないのかよく分からないし、
言いたいことも遠慮なく言うし…。
それが私の勝手なおじさんのイメージです。

-:日高さんは、そういうものに愛着を持たれるのですね。

日高:まあ「『おじさん』しか描きません」というほどではないですけど(笑)。

-:なぜか、しっくりくるんでしょうね。

日高:何なのでしょう。自分でもよくわかりません(笑)。

日高直子作者インタビュー

気配と隙間

-:日高さんが作りたいなと思ううつわを言葉で表現することはできますか。

日高:使ってくれる人が気持ちを寄せることができた上で、料理も引き立つものができればいいなと思っています。

-:気持ちを寄せる…。

日高:例えば、生き物を描いていたとしますよね。
そんな時、その生き物自体をうまく描くというよりは、「その生き物がそこにいる気配を描けたらいいな」という思いはいつも持っています。
鳥豆皿もそういう所からきています。何の鳥に見えてもいいんです。
どちらかと言えば、大きな鳥ではなくて小鳥のほうではあるんですけど(笑)。
「鳥がいる瞬間って、こんな感じだよね」という空気です。犬でも馬でも一緒。
あと、おじさんが気持ちよさそうに寝ている空気感だとか…(笑)。
お酒の瓶も、それが描きたいわけじゃなくて、トータルでフワっと見えてくる、香ってくるようなものがあるといいなと思います。
それを伝えるためのお酒の瓶です。

日高直子作者インタビュー

-:そういう部分は、うつわを好きになる要素として大きいですよね。自然と共感できる部分。
うつわを通じて、使う人と作る人が同じ空気を吸っているような感覚、というのでしょうか。

日高:私自身も何か物事を好きになる時はそういう感じのことが多い気がします。
ただ、そこばかり意識しちゃうと、私の場合、変な方向に行ってしまいそうなので(笑)、結局は食事のためのうつわであることは忘れないように。
だから、料理のための隙間は残しておきたいと思いながら作っています。

日高直子作者インタビュー

釉調と色調について

-:そうやって日高さんがしようとしていることに、釉調や呉須の色調がうまくフィットしています。

日高:材料は主人に頼っていますねぇ(笑)。
釉調は食卓で浮きすぎないようなフワっと溶けるような感じを目指しつつ、呉須は自分の好きな古いものをお手本にしながら、調合変えてテストを繰り返しています。
はっきりしすぎても、柔らかすぎてもいけないので、夫には本当に何種類もテストしてもらいました。

日高直子作者インタビュー

描きたい絵と、作りたい形

-:日高さんの仕事には、正円のような普通の形が少なく、少なくとも何かひとつ加わっています(笑)。 隅が切ってあったり、レリーフが加わっていたり…。

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日高:描きたい絵と作りたい形があって、その組み合わせを探っていると楽しいです。

-:この十字のお皿も目を引きますね。

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日高:小さいおしぼり置くのにいい小皿が欲しくて。

-:お寿司屋さんが喜びそうです。この角小皿もなかなか…。

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日高:この窓枠角小皿は、子供が学校から帰ってきたときの夕方用のおにぎりを握っておくのにもちょうどいいかなって。

おじさんが3Dに

-:これから作っていきたいものはありますか。

日高:例えば、車付きの、動くものとか…。
単なる入れ物とも飾り物とも違う何か楽しいものも作っていきたいです。
使ってくれる方がちょっと楽しい気分になるような…。

-:遊び心…ですかね。

日高:おじさんの人形を作ったとき、おじさんの小皿をすでに持っている女性が
「あ!3Dおじさんだ!」って、すごく楽しそうにしくれたんです。

日高直子作者インタビュー

出発点

-:日高さんは目の前で人が楽しんでいる風景を話すとき、ご自身がとても楽しそうです。

日高:実は、窯業専門校を終了したのが、東日本大震災が起きた直後でした。
電気窯を購入することに迷いが出てしまい、専門校の先生にその気持ちを伝えたら「人間はもともとエネルギーを消費しないと生きていけないのだから、それを心配するより、精一杯良いものを作りなさい」って言葉をかけていただいたんです。
それで吹っ切れたのかもしれません。
誰かに喜んでもらう、楽しんでもらうことに真っ直ぐ向き合えるようになりました。

-:そこが出発だったのですね。

日高直子作者インタビュー

展示会に向けて

-:さて、展示会、よろしくお願いします。

日高:11月なので、「実りの秋」や「豊穣」といった雰囲気で、お正月にも使ってもらえるようにお祝いムードを入れた感じで作ってみたいと思っています。

-:楽しみにしています。
よろしくお願いします。

日高:こちらこそ。

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