うつわ作りの始まり
花田:松本さんは、どうやってうつわ作りの仕事に至ったのですか。(以下花田-)
松本:最初はオブジェ作家を目指していて、坪井明日香さんの下で7年間過ごしました。たまたま、うつわを作って見てもらったら、使ってもらえるし、お客さんと近いことを感じたんです。オブジェでは得られない楽しさでした。
しばらくはオブジェとうつわを並行してやっていましたが、現在はうつわに絞っています。
-:坪井明日香さんにはどういういきさつで弟子入りしたのですか。
松本:京都の訓練校の時に、先生のところでのアルバイトの話がありました。
-:OKはすぐ出ましたか。
松本:今もう80歳にもなる方ですが、最初に伺った時、3時間もお話をさせていただいたんです。
話していても、すごくフィーリングが合うことを実感しました。
普段の生活のこととか、家族構成とか、焼き物のこととか…、普通の話題なんですけど、
自分が当時悩んだり、迷ったりしていたことが会話ごとにクリアになっていくんです。
ビックリしました。
で、3時間後「いいよ」って言ってくださって。
-:よかったですね。楽しい7年間だったのではないですか。
松本:厳しい先生だったので、大変なこともありましたが、本当に勉強になりました。
「とにかく小さくまとまるな」と7年間言われ続けました。
私、考えすぎたり、一個のことに悩んですぐ立ち止まったりしてしまうんです。
「もっともっと大きな視野に立って、色々なことを―人間関係も作ることも―好きなようにやることが一番大切だから、楽しみながらやりなさい」って。
今でも心に響いています。
これからもうつわを。
-:松本さんにとって、うつわとオブジェの相違点は何ですか。
松本:うつわは「使う」ところが大きいです。私の中で、オブジェは自分のためでした。
人生の中で残しておきたい日々の思いや考えがあって、それを形にする表現手段として選んだのだと思います。
-:現在はそれをうつわで実現しているということなのでしょうか。
松本:今はそうです。
オブジェは「こう見えるでしょ」って作家が言い切ってしまえば、その設定で見て下さる部分が大きいと思うんですけど、うつわはまた違うというか。
受け取る側の目線に立たないと作れないものです。
うつわもやればやるほど、難しくなってきましたが、それ以上に楽しさを感じています。
食卓に「楽しい感じ」を
-:うつわを作るうえで、現在大事にされていることは何ですか。
松本:色々な作家さんのものがあると思いますが、食卓にあるその色々な器の中に、
私のうつわが「楽しい感じ」を加えられればいいなと思います。
-:うつわ作りもずいぶん軌道に乗ってきて、順調に見えます。
松本:「使うものを作る」という意味で、ここ数年は本当に勉強させてもらっています。
磁州窯に魅せられて
-:先は見えてきたのではないでしょうか。
松本:もともと中国の昔の陶器は好きだったので、そういうものを作っていきたいです。
-:以前にも、宋の頃のものが好きだと伺いました。
松本:10年ほど前に東洋陶磁美術館で見て以来、磁州窯が好きです。
あの白黒のはっきりしたコントラストと、文様のエキゾチックさに魅かれています。
そういう魅力を自分なりに現代風に仕上げたいですね。
あの掻き落としのタッチの強さがいいんですよ。
-:「磁州窯 – 松本郁美バージョン」はどのようなアレンジがかかるのでしょうか。
松本:モチーフを自分の好きなものにしつつ、白黒だけでなく他の色も入れていきたいし。
あと、ここ見てください。少し青っぽくなっているの分かりますか。
ここ、私なりに研究して、窯変するような化粧土を作りました。
ムラを出して、影っぽく見せたいなと思っています。
-:今後について考えていることはありますか。
松本:私はすぐ色々なものをやりたくなってしまいます。
どんなものを作っても、私自身の世界観が表れるように、
自分自身に軸をしっかりと持っていきたいです。
絵付けのお皿
-:展示会用に作ってもらったものについて、伺います。
これは昔のものを模してもらいました。
松本:大小つくりました。
これがきっかけで、茶色化粧もできましたし、作っていて楽しかったです。
-:古物が、松本さんらしく甦った感じです。
松本:松井さんが持ってきてくれたものの中でこれが一番好きでした。
ここの青の線が効いていたり、この紫っぽいところが良かったり、次の仕事にも活かせそうです。
-:そう言っていただけると、嬉しいです。
馬上杯でカフェオレを
-:この馬上杯はいかがですか。
松本:これ馬上杯の大きいバージョンなんです…。
以前、普通の大きさの馬上杯を作った時にお客様から「これでカフェオレ飲みたい」
と言われたのがきっかけです。
-:馬上杯でカフェオレ。新鮮です。
松本:お茶の時間が楽しくなれば、良いなと思います。
デミタス
-:このデミタスもかわいいですね。
松本:ミニカップを作りたかったので、フランスの昔のミルクピッチャーをヒントにかたちを作りました。絵付けは、デルフトのタイルが元になっています。
-:登場するのは犬だけですか(笑)。
松本:いえ、絵替わりにしたいと思っています。アヒルだとかも。
バイオリンのうさぎ
-:これは、バイオリンのうさぎですね。
松本:これはもう本当に楽しんで使ってもらいたい器です。
動物が走り回っていたり、洋服を着ていたり、物語を感じさせるものを目指しました。
-:有難うございます。
展示会、よろしくお願いします。
松本:緊張気味ですが(笑)、色々な人に私の仕事を見てもらいたいなと思います。
よろしくお願いします。