安齋新さん・厚子さんインタビュー


*厚子さんは予定が合わず、インタビュー終了後の合流となりました。


庭の灰

花田:展示会に出品予定のうつわについてお話を伺いたいと思います。
まず、こちらの庭灰段皿からお願いします。(花田以下-)

安齋新:庭の雑草や落ち葉、剪定したものなどの灰を釉薬に使っています。
それなので、庭灰という名前です。

-:色々なものが混ざっているのですね。

安齋新:松やら椿やら、名前も知らないような木も・・・。
まあ、子どもと一緒に食べ物を焼きながら、遊びを兼ねているので、楽しみの一つという感じです。
いろいろ継ぎ足しながら作るので、焼くと感じが毎回少しずつ違います。

-:窯出しも楽しみですね。

安齋新:毎回同じ仕上がりで作るものもありますが、それだけではドキドキ感もないですから、違う楽しみです。

-:かたちも自然で、最後のこの縁の感じも、安齋さんらしい良い雰囲気です。

安齋新:これは彼女(厚子さん)が作ったものですが、自分が使いやすいカタチとなると、オーソドックスなものになってきますよね。

-:何に使っているのですか。

安齋新:これは、和食が多いですね。

-:和食・・・ですね(笑)

安齋新:大まか過ぎました。
玉子焼き、アジの南蛮漬け、最近彼女がはまっている昆布締めなどに使っています。
家庭料理ということで。


輪花に梅花の刻文を

-:次は、新作です。

安齋新:近所の陶芸家の方が廃業される時に「仕事場を整理するから要るもの持って行って」って声を掛けてくれたんです。
初期伊万里みたいなものから、中国の白磁みたいなものまで色々あって、その中のひとつにこういった梅の刻文をのせた白磁のお皿がありました。

-:梅花も配置もこんな感じですか。

安齋新:はい。

-:そのお皿を魅力的に感じた部分はどこですか。

安齋新:トータルです。
土の感じや白磁の全体的な一体感、石っぽいきれいな質感とか・・・。
模様もしつこくないし、抜け感もバランスいいですよね。
刻文も何か増やしたいなと思っていた時だったので、何か作ってみようと。

-:いかにも、安齋さんが選ばれる東洋の焼物という感じです。


本歌から学ぶこと

安齋新:これが本歌です。

-:結構近いですね。 安齋さんにしては珍しい気がします。
実際、作り始めてみていかがでしたか。

安齋新:昔のものは、結構合理的に出来ているんです。
例えばこの場合、ろくろをひいたものを型打ちしていますが、型からの抜けがいいんです。
最初から自分で作る場合、引っかかって取れなかったり、どこかで素地が切れてきたり、うまくいかないこともあります。
でも、昔のものは、そういうこともちゃんと考えられているんですよね。
見た目を考えて模様を本歌よりはっきり強調して作ったりすると、乾燥のときにそこから切れてきたり・・・。
それぞれのパーツが考えられた結果なんですよね。
理にかなっていて、無理なことはしていない。

-:作ってみて初めて分かるわけです。

安齋新:尚且つ、その切込みが浅いことによって装飾的にも上品に見えるという。

-:見た目に配慮しつつ、収まるところに収まっているのですね。

安齋新:よくあるかたちは作りやすさやデザインなど、ちゃんと考えられているんだなあって。
作ってみて色々な意図に気が付くことは多いです。


数字の10

-:次はこれいきましょうか。

安齋新:風化長石という志野などに良く使われている原料のひとつです。
普通長石って水の中で沈んでコチンコチンになります。
そういう長石がトロッとなるのがきれいなわけですけど、この釉薬だけは沈まないので、使いやすいです。
それと、志野焼で使われるだけあって、日本的というか・・・。
このあたりの青磁だと東アジア、中国、韓国、ヨーロッパみたいな固い焼物のイメージなんですが、これだと柔らかい感じになります。

-:かたちもそれにあわせて考えたのですか。
輪花のような・・・。

安齋新:十角形です。

-:見込みにはうっすら、輪線を。
無いと物足りないですかね。

安齋新:かなーと思って、入れました。
10って面白い数字です。
作る上でも4、8なんかの2の乗数は作りやすいですけど、10はまあまあ難しい。
元々十角形というのは5から来ているかもしれないし、そうだとすれば日本的なんだろうなって思います。

-:釉薬がうまく活かされましたね。

安齋新:これは原料の山を見に行きました。
信楽に近いところで、おじいちゃんがパワーショベルで掘っていました。
「山全体が長石」みたいな感じで、表面は乳濁した透明な石が一杯出てくるんですよね。
とてもきれいな山でした。

-:いいですね。


助け合って成り立つもの

安齋新:「このおじいちゃんを継ぐ人がいなくなったらこの長石どうなってしまうのかなあ」なんて思いながら見ていました。
他の材料も一緒で、なかなか後継者がいないですから。

-:そのものは存在していても、掘る人や加工する人がいないというのはよく聞きます。

安齋新:正木(春蔵)さんの筆も「この人の作るこれじゃないと、いけないんだ」って聞きました。
ものづくりって、それぞれがそれぞれを助けあって成り立っている部分があると思うんです。
でも、そういう仕事って、あまり表に出てこないから、知られていないですよね。

-:焼物を作っている人の名前は出てきても、そういった人達の名前を見ることはありません。
それでも、そういった人達に支えられているという事実や意識があるからこそ、正木さんや安齋さんが、ものづくりを謙虚に保っていられるのかな、とも思います。
ところで、これは盛り鉢ですね。

安齋新:そうですね。

-:煮物とか・・・。

安齋新:冬瓜とか、大根とか、おでんとか、彼女がそういうの好きなんです。

-:おでんは銘々ですか。

安齋新:そうです。

青磁刻文五寸皿

-:続いて青磁刻文五寸皿。

安齋新:この灰釉は伊賀方面です。
これも作っている灰屋さんを見に行きましたが、まあ、おじいちゃん。
そこは息子さんがいらしたから大丈夫なんでしょうけど(笑)。
そういう不思議な「灰の専門店」という存在、あり続けて欲しいです。
昔ほど需要がないから、灰だけじゃ成立しないのかもしれませんが・・・。
元々は灰のアク汁を染色屋さんが染めるときに使って、アクが抜けた後の灰を焼物屋さんがもらって・・・。
信楽や伊賀はビードロぽいのが多いからそういう灰屋さんがいたのだと思うんですが、灰がそのままガラスになっていくって、あらためて考えてみると物理的にも不思議な感じがするし、ちょっと面白いですよね。
で、不純物も一杯入っているから、思わぬニュアンスの出現や変化の感じがいいんです。

-:ところで、この文様は以前から作られていますね。

安齋新:中国の北宋時代のものです。
中のほうの文様だけ活かしています。

-:この写真だけから起したんですか。

安齋新:それなので、実物とは少し違うと思います。

-:中国の写したように見えないですよね。

安齋新:ええ、この中華風のもの抜いちゃうと。
ヨーロッパなのか中国のものなのか分からないようなものがいいです。
まあ、中国の中にはヨーロッパに輸出していたものも多いだろうし、イスラムっぽいものもありますよね。
西安あたり、シルクロードで繋がっているから、ちょっとエキゾチックなのが面白いなと思って。

-:これは普通の取り皿でしょうか。

安齋新:デザートにも良いかなと思って。
フルーツを銘々に盛ったり、寒天ゼリーや水羊かんなんかにも、うちでは使います。


水餃子にひし形菊鉢

-:青磁ひし形菊鉢はいかがでしょうか。

安齋新:これは、彼女が作っているんですが、一個一個エッジを削っています。


-:ピリっとしていて良いですね。

安齋新:そうですね。
磁器のピリッとしたこういう感じがいいなと思います。

-:丸みの強い楕円の具合も丁度良いですね。
普段、使われていますか。

安齋新:ほうれん草のおひたしなんかを盛ります。
果物にも。
青磁は和洋中何でも合いやすいと思っているので本当によく使います。

-:また、お浸し(笑)。
料理をされている厚子さんの代わりに答えてくださってありがとうございます。

安齋新:(笑)。
そうそう、あとこれ水餃子なんかを銘々に盛っています。
深さがあるので汁物にも汁気のないものにも銘々鉢としてよく使います。

-:いいですね。合いそうです。
これ、ちょっと焼けた感じになっていますね。

安齋新:釉を薄めにして、線が際立つようにしています。

デザートの時間

-:この六角は最近のものですね。

安齋新:割と新しいです。
お菓子やデザート皿みたいな感じで。
子どもはご飯食べた後のデザートが恒例になっています。
銘々の皿に盛ると少しずつでも満足感があるようで・・・。
子どもが生まれる前はなかったんですけど、その習慣が定着しました。

-:親もそれに付き合い始めた。

安齋新:そう(笑)。
で、そんな時に、それ用にうつわを作ろうかって。

-:六角で横長になっていて、この見込みの部分や、このちょっと端反っている部分や、最後の立ち上がり・・・形は色々気を使われているようです。

安齋新:そうですね。
飴釉も作ろうと思っています。


気負わず作ると、気追わず使える

-:続いてねじり。
定番です。
柔らかい雰囲気が好きです。

安齋新:自分たちもこの薄い感じが好きです。
この半磁の磁器っぽい部分がピリッと表現されている感じがいいのと、作っていても気持ちいいので。

-:作っていて気持ちがよいとは。

安齋新:思い描いていたようにできるというか・・・。
このかたちは自分たちのイメージする青磁のカタチとして表現しやすいんです。
定番は、そういう感じでリズムよく出来たものが多いですね。
変な思いがない分プレーンだから。

-:作るときに自然な感じというか。

安齋新:気負わず作ると、気負わず使える気がします。


自分達の暮らしの近くに

-:安齋さんは独立16、7年でしょうか。

安齋新:そうですね。
ふたりで一緒に作るようになってからは10年ちょっとです。

-:少しずつ新しいものが加わって、徐々に変わってきました。

安齋新:オーソドックスなものの割合が増えてきました。
自分たちが普段使いやすいものに寄ってきています。
イメージがある分、無理なく作れます。

-:自分達の暮らしと仕事がよりリンクしてきたのでしょうか。

安齋新:近くなってきました。

-:その分、自然になって来たのですね。

安齋新:そういうことなんだと思います。

-:ありがとうございました。
展示会、宜しくお願いします。

安齋新:よろしくお願いします。




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