工房を行く イム サエム 新作展を前に


初登場「手付きポトフボウル」について

今年のイムサエム新作展は12月3日(日曜日)から始まります。
余すところあと一週間足らず
熱心なイムさんファンの中には今からわくわく 胸がときめいておられる方もいらっしゃるでしょう。
台風一過お天気に恵まれた10月下旬のある日
じっくり1年を掛けて作り上げた 誕生したばかりの初々しい新作のかずかずを 拝見するために
イムさんを愛知県豊田市の工房にお尋ねしました。

思い起こせばイムサエムご夫妻に始めてお目にかかったのは
花田を開店して間もない40年も前のことです。
ご夫妻で自作を携え花田を訪ねてくれたのです。

初めて目にするイムさんの安南手を基調とした作風は
当時の作者の中でも特に際立っており
瞬間身構えてしまったことを今だにはっきりと覚えています。
ところがうつわを前にしてご夫妻と話をしているうちに
おふたりの穏和で実直な人柄と共に
仕事ぶりが丁寧で高いスキルに裏打ちされていること
またうつわの醸し出す個性が
現代の食卓にあっても決して突出したものにならず
見事に調和していくであろうことが了解できたのです。


カンボジアから来日して40有余年経たれるイムさんです。
僅か数年の修業の後独立してからは その殆んどを互いに最も信頼し合う間柄として過ごしてきました。

その間にはあとにしてきた故国カンボジアで 厳しい戦禍に見舞われた激動の時期がありました。
当時遠く離れた日本にいて 過酷な状況にある家族、友人に思いを馳せるイムさんの心の内を
察するに余りあるものがありました。
悲痛な思いを胸に秘め身体いっぱいに背負い込みながらも
日常の生活や仕事への姿勢を全く変えることなく 淡々と日々を重ねていたイムさん。
その姿に静かで深い感動を覚えたものでした。


決められた個展は必ずやり遂げ 常にスキルを磨き上げていくことに抜かりなく
個展のたびにお客様のリクエストに応える新作を作り出してきました。
出会った時から今日に至るまで 如何なることがあろうと
その”揺るぎなき日々”は決して変わることはありません。

今回も注目すべき新作に「手付きポトフボウル」があります。
前回の個展でお客様と話が弾む中で リクエストされたポトフのボウル。
大きめに切った肉や野菜を コトコト スープで煮込んだ伝統的なフランスの料理です。
寒い冬の夕食どき 家族で囲む温かなポトフをイメージしながらのうつわ作りでした。
ひとつひとつにより手を加えて作り込みました。

今 正に弾けんばかりのザクロがあしらわれ 軽やかに魚が飛び跳ねている
イムさんとしては初めての試みで縁に綺麗に並んだ印花文が
ボウルの雰囲気を引き締めています。
ハンドルは縦型と横型の2種で重ねや使い勝手への気遣いです。
その他200種を越える力作が個展会場を埋め尽くします。
洒落た角豆鉢、楕円小鉢を始め食卓に変化を呼ぶ楕円深長皿を
黄釉、染付け、御深井、刻文で仕上げています。
従来の仕事にひと手間ふた手間加えた新しい領域・・・。
新鮮なイムさんの世界が拡がっています。



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