30 Years of …
この10月で独立30年目を迎えた藤塚光男さんに、
うつわを通して、30年を振り返っていただきました。
うつわの向こうから浮かんでくる、その時どきのこと、関わってきた人々の顔、自らの思い・・・。
丸文が楽しい
花田: まず、独立時から作られている丸文のお皿からお願いします。(以下 花田-)
藤塚: これは30年間ずっと作っています。
古伊万里の蕎麦猪口でこの丸文を見て、それをお皿にしました。
蕎麦猪口は四つ割でした。
最初、六つ割りにしたんだけど、もう少しスッキリさせようと思って、五つ割に。
この大きさだと、それくらいがバランスいい。
-: リムを削ってありますが・・・。
藤塚: アクセントとしてね。
-: 丸文は、描くの難しいですか。
藤塚: ・・・。 楽(笑)。
-: 楽しい、ということですね(笑)。
藤塚: そうそう、そういうこと。
真面目な話をすると、最初の頃はきれいに描こうと思って、描いていたんですが、絵って、きれいに描こうという意識があると死んじゃうんですよ。
そういうことを気にしないほうが、絵が生きてくると言うか・・・。
そんな気がしています。
-: もともと、真面目に丁寧に描いている段階があっての話ですよね。
藤塚: そうだね。 数こなした上での話です。
-: 丸文のお皿はご自身でも使われていますか。
藤塚: 全サイズ、我が家の食器棚に並んでいます。
4.5寸は取り皿、7寸は盛り皿ってね。
元々作ったのは4.5寸。
お客さまからの要望で6寸、7寸・・・と、種類も増えていきました。
声を聞くこと
-: お客様からの声があったのですね。
藤塚: 独立した頃は「展示会はしなくてもいい」と思っていました。
お店にサンプルを持っていって、注文を貰って作っていようと。
ところが、元々お付き合いのあったギャラリーのオーナーさんが声を掛けてくれて、展示会をやることになった。
-: 新しい試みで気が付くこともあったのではないでしょうか。
藤塚: そこで、お客さんと直接会話をすると「こんなものできますか」とか「こういうところがいいですね」とか、色々言われるんです。
使う方々と接することは作り手にとっては必要だなと思いました。
料理を作って、盛る人達の直接の言葉を聞くって言うことはすごく勉強になる。
-: 使い手の声の存在に気が付いたお皿ですね。
藤塚: これに限らず、もうちょっと深めとか、もう少し大き目とか、ちょっとしたことで、使い勝手は大きく変わってくる。
そういう細かい部分の精度を上げることもできたし、新たな目線ももらえました。
例えば、コーヒー碗なんて、外国のもので良いもの沢山あるし、わざわざ、手作りで作る必要はないと思っていたけど、お客さんに言われて作るようになったら、意外としっくりくる。
30年間作り続けている輪花
-: 次にこの輪花です。
藤塚: これも初期からのもので、ずっと定番です。
菊型輪花のカタチを初めて作って、初めて絵付けしたものです。
作った当初は30年作り続けるとは思いませんでした。
カタチそのものは古くからありますよね。
向付にもなるし、お刺身なんかも盛るときれい。
-: 形も使いやすいですね。
お皿とも鉢とも言えない深さが丁度良い。
中の文様も変わりませんか。
藤塚: 最初はこの菊に蝶文からです。
何かを模したわけじゃなくて、自分で作りました。
-: まずかたちがあって、それに合う絵を決めていった感じですね。
藤塚: 30年前のことだから忘れちゃった(笑)。
石膏型も磨り減ってくるから、もう7~8代目ですよ。
この見込みの段のところも、バンバン素地を型にあてている内に、なくなっていく。
あ、この型も段が無くなりつつあるね。
そろそろ型を取り替えないと。
-: 輪花にも気を使われましたか。
藤塚: 型モノだけじゃないけど、僕はカチッとしたものではなく、柔らかい雰囲気に持っていきたいと言う風には思っています。
-: それにしても、どれだけ作っているか分かりませんね。
藤塚: 2-3000は間違いなく、作っていると思うけど、分からないよ。
ただ、最近は在庫を持つお店やギャラリーが減ったから、まとめて作る分は減ったかな。
展示会主体のお店が増えたでしょう。
それまではいつも作っていた覚えがある。
だからこその、仕事
-: 絵付けのものが続きましたが、次は白磁とルリの角皿です。
いかにも普段使いといった、非常に使いやすそうなうつわです。
藤塚: 元々は別冊太陽の「小皿豆皿1000」で見たんですよ。
-: あれは参考になりますよね。
藤塚: それに載っていた小皿を、向付くらいで使えるようにしたのがこれで、それを元に色々な大きさや形を作っていきました。
-: 絵付けすることは考えなかったのですか?
藤塚: 以前は、絵付けしたものもありました。
無地のほうが飽きなくていいかなと思っています。
-: これは作るとき、大変だったりしましたか。
藤塚: 別に普通だよ(笑)。
ただ、あれは写真を見てかたちを起こしたわけだから、どれくらいの深さにして、どれくらいの反り具合にしようかと、何個か試したと思う。
で、外側はパシッと真四角にしないで少しカーブをかけて、ちょっと膨らませています。
-: 使い勝手も、そちらのほうが良さそうです。
藤塚: 料理をフワッと引き立てる感じで雰囲気良くなるかなと。
分かれると思うんです。
カチッとしたものが好きな人もいるだろうし、僕の染付みたいに、フワーッとした下手くそみたいなものを好きな人もいる(笑)。
-: いえいえ、そんな・・・。
藤塚: 元々、そういう初期伊万里が好きで、焼き物やっているわけです。
特に僕なんて、運筆も何も習っていないし、全部独自だから(笑)。
自分なりのやり方で、数こなして、好き勝手にやってきた。
でも、だからこそ、うつわを見てもらったときに「あ、これ藤塚のだな」って気付いてもらえる。
これまで、僕も弟子が何人かいたけど、絵付だけは自分でやってきた。
そうでないと、全然変わってきてしまうから。
-: これは藤塚さんご自身でも使っていますか。
藤塚: 小さいほうはお刺身の醤油皿に使ったりするけど。
あと、珍味をちょこっとね。
最近は、焼魚とか、お刺身とか・・・大きいほうを使うことが多いかな。
-: 食生活が変わってきたのでしょうか。
藤塚: 前はよく家で宴会をやっていたんですよ。
で、人が来たとき、こういうのにちょっとずつ盛り付けて出すと・・・
-: 格好いいですよね。
藤塚: 大したもの盛らなくても、かたちになるじゃないですか(笑)。
20年ぶりに作る7寸皿
-: それでは続いて、この芙蓉手鳥文輪花7寸皿。
これも昔ずっと作っていて、今回20年振りに作って下さいます。
藤塚: 最初に作ったのは25年位前かな。
元々好きな文様でね。
外はよく、古染付にもあるパターンですが、見込みは古伊万里から持ってきたんですよ。
-: 藤塚さんらしいアレンジです。
藤塚: うつわの文様って、簡素なものか、逆にこうやって描きこんでしまったもののほうが、料理が映えるんです。
-: 中途半端は良くないと。
藤塚: そうそう。
これは、結構描いてあるけど、外側もダミしてあるから、盛った時、きれいなんですよ。
-: 中途半端に余白を確保すると、かえってうるさく見えるというのはあるかもしれません。
藤塚: だから、その辺りのバランスは大事です。
(こぶしで料理をイメージしてお皿の上に重ねながら)こうやって料理を盛ったときに、周りの青で、キレイな感じになるでしょう。
これは炒めもの作って、ガバって盛って、中央に出すと言うよりは、これは銘々でメインプレートとして使えるかな、という・・・。
-: 控えめですが、輪花にした理由はありますか。
藤塚: 古いものも、輪花にしているものが多い。
あれだけ見ると、「なんで、わざわざ・・・」なんて思うけど、実はあれが丸いままだと、収まりすぎる、というか・・・。
-: 収まりすぎる・・・。
藤塚: スッとし過ぎるというか、変化がなくなってしまうんですよ。
勿論、輪花になっていない芙蓉手もありますが、個人的には輪花になっているほうが楽しいかな。
印判の掠れ具合
-: で、次は印判手。
藤塚さん、印判のバリエーション豊富です。
印判をやることになったきっかけはあったのですか。
藤塚: 古伊万里なんかの、所謂こんにゃく印判と呼ばれているものを面白いなと思ったのがきっかけです。
-: 印判手は連続文様ではあるけれど、不規則でもあるし、そのあたりが面白いのでしょうか。
藤塚: やはりこれも、カチッとした印判は嫌なんです。
だからゴム印は使わない。
-: ゴム印だと、ベタッとなってしまいます。
何を使っているのですか。
藤塚: スポンジ。普通のスポンジではないけどね。
でも、それに至るまで、本当に色々試しました。
芋なんかでもやるけど、腐るでしょう。
野菜はダメだよ。
使うたびに作らなきゃいけなくなる。
そうかといって、ある程度、吸収性のあるものじゃなきゃいけないし・・・。
-: 文様のアイデアはどこから出てくるのですか?
藤塚: その時その時で違うけど、貝なんかは、染色か何かの掠れた文様の出方が面白くて、作ってみました。
僕は印判の掠れ具合が好きなんです。
-: これは使っていますか。
藤塚: この楕円鉢はしょっちゅう使っている。
-: うちでも随分こちらはお世話になりました。
「花田さん、こればかり頼むねえ(笑)」とか言われながら(笑)。
藤塚: そうだったね(笑)。
コレ、和洋両方いけるんですよ。
-: 最近は楕円の食器も増えてきましたけど、この深さと大きさって、ありそうで無いかもしれません。
李朝の民画は面白い
-: で、蝶に石榴文大皿。 元々李朝の・・・。
藤塚: 民画です。
勿論それは印判を使ってはいないし、蝶々の位置も少し違ったけど、木はこんな感じで描かれていました。
大まかな構図は変わりません。
李朝の民画は面白いですよ。
タッチも好きですし、蓮の絵なんかも魅力的です。
-: 日本人の描く蓮とは違いますね。 山も違う・・・。
藤塚: 違うね。
一番楽しいのは・・・
-: 線に花文7寸皿。
これは最近のものです。
きっかけはなんだったのですか?
藤塚: 花模様をやりたかったんです。
そうしたら、こういうものになりました。
フッとでてきたアイデアです。
他の新作も、他の仕事していて、フッと思いつくこと多いんです。
そうすると、一度その仕事は中断して、忘れないうちに描いておくんですよ。
-: 藤塚さんはずっと作っている定番もありながら、新作もコンスタントに作り出されていますね。
藤塚: 新作を考えながら、サンプルを一枚ずつ作っている時が、一番楽しいね。
最初のサンプルが窯から出てくるのを見るのが、一番の楽しみ。
がっかりすることもあるし、思ったより出来が良い時もある。
-: 長年同じものを作っていると、同じものでも見方は変わってきますか。
藤塚: しばらく作っていない昔のものを見て、我ながら「これ、いいうつわだな」と、あらためて思うことがある(笑)。
-: 時間を空けるとそういうことも起きるのですね。
藤塚さん、見本もきれいに保管してあります。
藤塚: きれいじゃないよ。 ただ、並べてあるだけ(笑)。
花弁割文
-: さて、花弁割文。
古伊万里ですね。
本当はもう少し大きかったのでしょうか。
藤塚: いや、このままの大きさ。 「小さな蕾」か何かに載っていた。 外開きのものって、結構使いやすいんです。
-: 作るの、楽しみですね。
藤塚: そうだね(笑)。
今回、これを8寸で作りましょう
-: 流水梅に草花文皿はいかがでしょうか。
藤塚: 3-4年前くらいから作っています。
今回は出品しないけど、好きな文様です。
伊万里のもので、元々は大皿でした。
これは7寸だけど、実は8寸か9寸のほうが良いんじゃないかと思う。
-: そのほうが、余白が活きそうですね。
藤塚: この図柄なら大きいほうが良いと思います。
7寸くらいだと空間がなかなかうまく表現できない。
本当は、大皿が持っていたゆったりとした雰囲気が好きなんです。
-: これ雲ですか。
藤塚: そうだよ。
8-9寸だと、雲ももう少し活きたかな。
今度はそうしてみようと思う。
あ、それなら、今度の展示会でこれを8寸で描いて出そうか。
-: それは嬉しいですね。 是非、お願いします。
面白いでしょ。それだけの話(笑)。
-: 続いて、草花鳥文しのぎ6寸皿。今回の新作です。
藤塚: これは、中央の絵付けだけの5寸のものが古伊万里にあったんだけど、それをこのカタチにしました。
6寸にして、しのぎを入れてみたら面白いかなと思って。
-: 大きくした分、絵付けを広げようとは考えずに、しのぎにしたのですね。
藤塚: 多分、絵を広げると、間延びすると思った。
-: しのぎにも色々あると思うんですが、藤塚さんの好きなしのぎはどんな感じですか。
藤塚さんがしのぎに思うこと。
藤塚: しのぎに思うこと(笑)?そんなのないよ(笑)。
-: スミマセン。
無理な質問でしたね。
しのぎが垂直じゃなくて、ナナメですね。
藤塚: こっちのほうが、面白いでしょう。 それだけの話(笑)。
なぜか徹夜に
-: あらためて30年間の仕事を振り返ってみて、いかがでしょうか?
藤塚: 結構、昔のことを忘れている中で、初期の頃でよく覚えているのは、初窯のときのことかな。
当時は、弟子もいなくて、かみさんと二人でやっていたんです。
独立して「さあ、いよいよ窯を始めて焚くぞ」って張り切っていて、窯詰めまで夜の8時くらいまでに終わる予定だったんですよ。
それが、夜中になっても終わらない。
というのも、最初に見積もっていた通りに、全くもって作業が進まない。
今は釉はがし機(うつわの高台に掛かっている釉薬を焼く前にはがす機械)があるからいいけど、当時は手作業でふき取っていた。
実は、その作業が、凄い時間掛かるのよ。
で、結局終わったのは翌日の朝10時。
一睡もせず徹夜(笑)。
もう、二人で笑うしかなかったね。
独立前、九谷青窯に居る時は、そういう作業はそもそも分担されていたし、スポンジでひとつずつ剥がしていくというのは、初めてだった。
もう、すぐに釉はがし機買ったよ。
それだけは覚えている(笑)。
-: 30年で、好みは変わってきましたか。
藤塚: 良いなと思うものは変わらないかな。
-: 奥さまも一緒ですか。
藤塚: うつわに関して?
-: もちろんうつわに関してです(笑)。
藤塚: そうだね。 作ったものをまず使ってくれるのも、かみさんだからね。
これまで、これから・・・
-: 藤塚さんは、今回の個展で丁度30年という節目を迎えます。
30年前といったら僕がまだ小学生とか中学生とか、そんな時ですよ。
藤塚: 初めて青窯で松井さんを見たのなんて、もっと前だから、まだ幼稚園にも入っていなかったと思うよ。
可笑しいね、今、こんな風に話しているわけだから。
-: 長いですね。 勿論、これからも仕事は続けられます。
藤塚: 作ることが好きだし、良いペースを保ちながら、できるだけ長く続けていきたいなと、思います。
僕も、いい年だしね。
この間も万さん(中尾万作さん)から電話かかってきてさ「暑くて、キツイ」と言っていた。
-: 万さん、花田での個展がいつも8月なんです。
藤塚: 「お前は、いいな、10月なんて一番いいじゃないかよ」って(笑)。
まあ、冗談はともかく、30年振り返って思うのは、何よりお客さんやお店の人達への感謝ですよ。
日本中、沢山作家さんがいる中で、自分のものを選んでくれていることに感謝です。
僕が好きなものを作り続けられているのも、そのおかげ。
頭が下がるし、言葉になりません。
-: そして、奥様のサポートあっての30年間。
藤塚: 嫁さんは大事ですよ、本当に。
-: 焼き物屋さんの仕事にとって、奥様の存在が重要なことは多いと思います。
藤塚: 事務は全て任せているから、僕はどこに何があるか、分からない。
「私に何かあったら、困るから」って色々場所を教えてくるから「分かった、分かった」と答えてはいるけど・・・
-: 2-3日後には忘れている(笑)。
藤塚: 覚えようとはしているんだよ(笑)。
-: 色々お話、有難うございました。
個展よろしくお願いします。
藤塚: こちらこそ、よろしくお願いします。