「あらねばならぬ」のない二人
花田: ものを作る仕事の中でも、焼き物、うつわに至ったのはどういった流れだったのですか。(以下 花田-)
安齋新: 食べることが好きですし、元々衣食住に纏わることが好きなんです。
最初は、子供の頃の粘土遊びから始まった記憶があります。
母親の実家の蔵にあった古いものを見たり、高校生くらいからは薪窯をやっている親の知人の生活スタイルを良いなと思ったり、家にあった加茂田章二やルーシーリーの本を見ていたり・・・
そういったものが段々と収斂していき、焼き物が興味の対象として大きくなっていったのだと思います。
華やかな現代美術などにも興味がある時期もありましたが、身の回りの使える道具であるうつわのほうが、僕にとってはしっくりきたのかもしれません。
安齋厚子: 私は小さい頃から、手を動かすことや働いている手の動きが好きでした。
地元のお漬物屋さんが樽から漬物出している手や、パン屋さんが食パンを丁度のサイズの袋にきれいにシュッと入れるしぐさに見とれちゃうこともありました。
手のしぐさがきれいなんですよね。
-: さて、お二人が一緒にモノ作りをされるようになってから随分経つかと思いますが、最初から、お二人の方向性は大体一緒だったのですか。
安齋新: 好きなものは似ているなっていう印象はありましたね。
安齋厚子: まったく違うってコトはなかった。最初は二人で一緒に仕事をすることに抵抗あったのですが、始めてみたら意外とすんなり出来ました。
安齋新: 最初は彼女のほうが抵抗あったみたいだったかな。
安齋厚子: ハハハ。でも始めてみて、食事も一緒だし
「こういうもの、あったら良いね」
なんて話しながら自然に進みだしたんです。
まあ、失敗も多かったけどね。
安齋新: 多かったかな(笑)。
-: 修行先は有田と京都ですよね。
何か違いを感じることはありましたか。
安齋新: 高台削りのロクロの回転は逆ですけど、今は色々混ざってチャンポンですね。
安齋厚子: 新さんは柔軟だよね(笑)。
安齋新: よく言えば柔軟。実態はいい加減(笑)。
僕らは焼き物屋さんの家に生まれたわけでもないし、自分たちのなかに、しばりはあまり感じないね。ただ、お互い、一番最初に教えてもらったところのクセは抜けない。
安齋厚子: 良くも悪くも私たちには「あらねばならぬ」が全く無いんです。
興味の対象も音楽、民族衣装やテクスタイル、建築・・・色々なものを面白いなと思って、仕事に色々影響を与えています。
-: それが、安齋さんの仕事の良いところなのかもしれません。
窮屈でないというか・・・ひらけていますよね。
安齋厚子: そういってもらえると・・・嬉しいですね。時に使いにくいものもあるかもしれないのは、そういうこともあるのかもしれない。既存のルールを気にしないで作ってしまうこともあるので。
安齋新: 使い勝手については、彼女のほうが敏感です。
安齋厚子: やっぱり使うのは私のほうが多いので。
安齋新: 単純に「かたち」だけを追いかけるのは僕のほうが多いかもね。
安齋厚子: 私も使いやすいだけのものは嫌なんで、ちょうど良い落としどころを見つけたいんです。ただ、使えないと手には取ってもらえないし・・・
安齋新: ただ、「かたち」が良くないと目にもとまらないんじゃない(笑)。
安齋厚子: 格好いいだけでも嫌なんです。
-: 格好いいだけって、お二人にしてみると格好悪いことなんじゃないですか。
安齋新: 民族的な衣装がシュッとしていない時あるじゃないですが。
シュッとしたその無機的な格好良さだけじゃなくて、ちょっとしたアクというか、土着な、そういうものが入っているほうが好きなのかな。
使っている内に愛着がわいてくるようなもの。
あまりキャッチーなものって、飽きるような気がします。
音楽なんかも一緒で、時と共に噛み締められるようなものがいいですね。
それに、格好良すぎるものは、自分たちのあり方とも違うと思うんです。
すべてが格好よく決まっているものに、僕らはあまりリアリティーを感じません。
安齋厚子: 古いものをそのまま模すことも、あまりしないよね。
そうしようとした瞬間、正解ができてしまう。
で、その正解を追おうとすればするほど、それから離れていっちゃうような気がします。
安齋新: エッセンスを取り入れたいんですよね。
昔の古いもの見たとしても、土も違う、薬も違う、窯も違う、そもそも生活で電気使っていること自体違うのに、同じものになるほうがおかしい。
-: 古いもので言えば李朝のものもお好きですよね。
ああいったものから感じる雰囲気を落とし込んでいく感じでしょうか。
安齋厚子: ああいうおおらかな感じ。
安齋新: あるいは、アールデコやブランクーシといった時代の雰囲気とか、工芸とプロダクトのミックスした感じとか・・・いろんなもの好きなので・・・節操ないです(笑)。
安齋厚子: 単に手仕事に惹かれる部分もある。
-: 二人で色々話すこともあるんですか。
安齋新: あります、あります。
すごい時間かけて作ったものを「大きさが違う」と秒殺されたり・・・
安齋厚子: 収納が悪かったり・・・
安齋新: そうだけど、これくらいの大きさでこれ、なんていう風に制限されると逆にノビノビ作れなくなりますよね・・・。
安齋厚子: でも逆に、作った人に「これでここに○○を盛ってください」とか言われると盛るほうも窮屈ですよ。
-: (笑)お互い大変ですね。「秒殺」はしょっちゅうあるのですか。
安齋新: いっぱいありますよ。
安齋厚子: (笑)私、すごい意地悪みたい。
でも、そういうのって、石膏型がすごくキレイなんですよ。
新さん、磨いたり削ったりするの好きだものね。
安齋新: 型自体が作品になっていることがよくある、という自覚はある(笑)。
安齋厚子: ただ、石膏型って塊ですよね、逆にうつわは中が空洞です。
どんなに型をきれいに美しく作っても、うつわに転化すると、その密度ってなかなか出てこないんです。型がやたらときれいなこともあったよね。
安齋新: 石なんかでもどんどん磨いていくと、かたちがグッと出てくることあるじゃないですか。
逆に強さが出てくるって言うか。
で、そんなことをしていると、型で力尽きることもあります(笑)。
-: 新作制作の精度は上がってきましたか。
安齋新: 彼女からイメージを伝えられて作ることが多くなったので、やみくもに作ることは減りました。
例えば鉢を作る際「汁物も、煮付けも入るように。
でも量が入りすぎて、野暮ったくならないように」なんていう風に。
-: 具体的ですね。
安齋新: 抽象的なことも多いよね。「フワッとした感じ」とか言われて。
安齋厚子: このなます皿も縁の仕上げを色々悩んだよね。
安齋新: 本歌をアレンジしながら、結局本歌に近づいていった感じです。
最初直線的にしていたんですが、フラットすぎたので、また柔らかくしたり・・・
安齋厚子: なます皿は昔から作って欲しくて、ずっとお願いしていたんです。
-: それを厚子さんが、ご自身で作ることは無いんですか。
安齋厚子: なます皿は型が必要で、そうすると型をつくってもらわないといけないから(型つくりは新さんの担当です)。
-: 色々リクエストがあるんですね。
安齋新: 言うほうは気楽なんですよ(笑)。
それに、その・・・ノビノビと考えたものって、矛盾していても、頭の中では矛盾を起さないんですよね。
「いいね」に「いいね」を足したら、もっとよくなるはず、みたいな。
両立しない二つの「いいね」を合わせろという・・・
-: (笑)
安齋新: 実際やっているほうは、言われた通りに進めていくと、かたちを作る上で行き詰って、その矛盾に気が付く。
やってみると、彼女も「そうじゃないんだよねー」とか言い出して・・・
安齋厚子: 型の仕事は工程が多いし、後戻りできない。ここまでやったのに、っていうのがあるから難しいよね。
安齋新: 出来たものに色々言われたときには、最近はいったん作業をとめます。
次の日になって、距離を置いてあらためて見れば、またやってみよう、という気分になれる。
完成直後にダメだしされると、もう消化しきれないですよ(笑)。
安齋厚子: 前はそれでよくもめていました。
安齋新: 「そりゃ、おかしいよね」ってなるんです。
安齋厚子: 私は「そんなこと言ってないよ」って。
安齋新: そうすると僕は「何時間掛かったと思ってるんだよ」って。
安齋厚子: そうすると私は「時間の問題じゃないよ」と言いたいです(笑)。
-: 仲、いいんですね。信頼関係が無ければ実現しないやりとりです。
安齋厚子: 最近はお互い冷静になってきたね。ただ指摘される部分って、大体自分でもなんとなく気になっているところなんです。
安齋新: 気になっているし、これはこれでいいよね、って内心、自分でも言い訳しているんだろうね。
-: 新さんから厚子さんへのインプットはないんですか。
安齋新: 例えば、ここにあるタンポポ紋など、時に加飾でアイデアを出すこともありますよ。
安齋厚子: 刻紋シリーズは中国の古いものを参考にしています。
中国っぽすぎないし、洋っぽい雰囲気もあっていいな、って。
-: 型のものと彫ったもの、雰囲気変わりますね。
安齋厚子: 彫ったものは、釉たまりがきれいなので、色の濃い灰釉が合うと思います。
安齋新: 陽刻は、色のうすいものや白の釉薬のほうが、きれいだよね。
-: お互いに意見を交換されているのですね。
安齋新: どっちかっていうと、僕が言われるほうが多くない?
安齋厚子: そう?(笑)
-: 最近はバリエーションも増えました。
最初は蝶形の鉢、リムの皿、シンプルな猪口・・・あれから十年近く経ちますね。
今でも、最初に蝶形の鉢を見せてもらったときのことは覚えています。印象的でした。
そのうち、ねじりや刻文もでてきました。
安齋厚子: 基本的な好みは変わっていないような気はしますが、表現方法が増えてきたんだと思います。
-: 今まで作ってきたものの中で、印象に残っているものってありますか?
安齋新: 刻文なんかは、元々、作り方もわからずに、模索しながら作り上げていったものなので、思い入れがあります。
-: 蝶々なんかは元々ヒントがあったんですか。
安齋新: まったく変わってはいますが、中国のものをヒントにしています。
安齋厚子: 鋳型ならではのかたちにしたいなっていうのはありました。
安齋新: 最初は「成形の可能性を探る」みたいに色々試していたと思いますが、最近は試し尽くしてきて、オーソドックスなものに戻っているような気がします。
-: これからしていきたい仕事、なにかありますか。
安齋厚子: 自分もそうなのですが、ずっと使うものもありますが、いったん使うのをやめているものってありますよね。
そうやって使わないときがあったとしても、長い間使ってもらえるものを作っていきたいなって思います。
あと、毎年お正月に出てくるうつわ、のように季節感を感じられるもの。
あとで思い出したときに「あ、これ夏になると出てきたよね」とか「お正月に出てきたよね」とかって思い出してもえるようなものになると嬉しいです。
-: 10月の企画展に向けてお願いします。
安齋新: 今、色々試してもいるんで、色々見ていただけると思います。
安齋厚子: 定番のものもいつもと雰囲気が少し変わるかもしれませんが、それも楽しんで欲しいです。
安齋新: ずっと作っているものも、別に正解を僕らは設定しているわけではないので。
サッカーでも、ボールをゴールにおきにいくようなシュートじゃつまらないから。
ゴールを明確に設定しすぎると、窮屈な仕事になってしまいそうな気がします。
その場その場での思いつきのようなものも含めながら、伸びやかな雰囲気を大事にしていきたいと思っています。
-: 手仕事の魅力の大きな部分ですし、優等生ばかりでは楽しくないですものね。
安齋新: それこそ「いいね」に「いいね」を足しても「とてもいいね」にならない、みたいな話です。
安齋厚子: 大小失敗もあるんだけど、それも含めての私たちの仕事のやり方なので。
やってみたい事はたくさんあるので、少しづつカタチにしていけたらいいなと思います。
-: 有難うございました。10月よろしくお願いします。