うつわの魅力、マジョリカの魅力
花田: うつわ作りのきっかけは何だったのですか?(以下 花田-)
伊藤: 15年位前の芸術新潮「骨董の目利きがえらぶ 現代のうつわ」号です。
その中で青柳恵介さん司会の「よい器ってなんだろう」という座談会を読んで、
うつわって面白いなって思いました。
その中でやけに目立っていて格好よかった大嶌さんの魯山に白磁を持っていったのが最初です。
-: 今は色絵のイメージですが、伊藤さん、白磁のスタートだったのですね。
伊藤: 色絵は最初豆皿だけでしたが、いまはかたちも色も種類が増えました。
ただ過剰にならないように、見直しはしています。
あと、粉引に色絵をしようと思ったのは、マジョリカがヒントになっているんです。
-: マジョリカの焼き物、明るいし、筆の走りも柔らかくて楽しく作っていそうでいいですよね。
伊藤: マジョリカなんかを見ていて思うのは、あんなに重くて使いづらそうなのに、魅力的。 逆に、重さを気にし過ぎてついつい軽く細くすると、華奢になって魅力がなくなってしまうから 難しい。 それと、白釉の上にゴスが溶け込んでいるので、ああいうフワッとした雰囲気になるんですよね。 日本の染付みたいに灰釉の下にあるゴスと、錫釉の上に乗っかっていて溶け込んでいるゴスのコバルトの感じは違うんです。
-: ゴスの色自体も違います。
伊藤: コバルトの純度、というかおそらく絵の具の状態が違うんだと思います。
-: たまに今、国内でもデルフトっぽい白の上にゴスで絵を描くんですけど、
なんか絵の具だけが浮いてしまっている感じなんです。馴染んでいないというか。
ちょっとしたことなのかもしれませんが、それが大きいですね。
自分の内面から出てくるもの
伊藤: よく考えないといけないと思うんです。
例えばマジョリカを好きになったとします。その上でなにかを作るとして、
まずマジョリカの何を自分が好きなのかトコトン突き詰めていく。
魅力の源って何なのだろうって、表面的な部分を削いで削いで・・・考えます。
そしてそれらを、自分の仕事に落とし込んでいく。
そこに時間が掛かるんですが、自ら考えて、苦労して作り上げていくこの過程こそが
僕にとってはモノ作りの醍醐味です。
-: 伊藤さんなりの、ものに対する解釈があって、その上に表現があるわけですね。
伊藤: はい、焼き物に限りません。
建築でも服でも美術でも色々なものから吸収していけるなって思います。
ただ、古いものは好きですが、その再現をする気は無いんです。
それらが持つ要素をどう組み替えていけるかっていうのをいつも考えていて、
例えば、印判だから和食器でなければいけないこともなくて、
印判で洋食器作ってもいいですよね。
大切にしたいと思うのは、骨董を見るなり身近に置くなり体感することで
純粋に自分の内面から出てくるものです。
「今こういうの流行っているから作りました」では選ぶ人もつまらないでしょう(笑)。
-: 今は、他人の仕事や、いわゆる流行ものが簡単に早く見つけられる環境にありますからね。
伊藤: 見ないようにしています。そして、聞かないようにしています(笑)。
-: 色々な情報が手に入れやすい今だからこそ、伊藤さんのようにそれらを遮断して、
我が道をいっている仕事がより魅力的なんです。
伊藤: 表面的に何かをなぞって、パッと作っても、恐らく僕自身が続かない。
すぐやめちゃうと思います。一方で、ただ沢山作っていると、逆に失敗を避けようとして、
段々小さくなっていってしまう、ということも起きるんです。
-: 「小さく」とは?
伊藤: なんというか、仕事のスケールのようなものです。
-: なるほど。
伊藤: 例えば、この間、ラスター彩買ったんですけど、銀彩とかラスターとか
丁寧にやりすぎると貴族のように華美なものになってしまって、なんか堅い・・・
どんな技法でもさじ加減なんでしょうね。丁
寧にやりすぎない一歩手前。そして、慣れてきた頃にまた見直す。その繰り返しです。
これからも、今まで通り
-: 伊藤さんは、色々なスタイルの焼き物を作られていますが、どれも伊藤さんらしい仕事
なんですよね。どのような仕事をされていても、常に同じ空気を持っているように感じます。
伊藤: 中国の陽刻みたいなものもいいなと思っていたのですが、やってみたら、すごく窮屈で、合っていないんだなと思ったことがありました。
なんか違うって思ったらすぐやめるようにしています。
始めは面白くても、続けているとやっぱり違うかなって思うこともあります。
そういう自分の気分に対しては正直で素直でありたいかな。
あと、色々なものから、学び続けていたいです。
美術館にあるものだけが全てじゃないし、先生になりそうなものは色々なところに散らばって
います。心揺さぶれるようなものを見ておかないとダメだな、って。
自分の仕事だけを見ていて、仕事の質を上げていけるとは思えない。
ただそれは、完成度の話しでなくて、魅力的なものは何なのかって、進み続けることなんだと
思います。何か、ハッと気付かされるものにこれからも出会っていきたいですね。
-: そばにおいておくことも大切ですね。美術館のようにガラス越しではなく、
使えるのは骨董のいいところでもあります。
伊藤: 美術館で、本当にいいなって思えるのはほんの数点でしょう。
完成度の高さと、自分が好きになるかどうかは別の問題だから。
-: 確かに。僕も見たいものがある時は、順番に見ずにそれから始めるようにすることが
多いです。じゃないと、見たかったものに辿り着く頃には疲れちゃう。
伊藤: 長い時間、見ていれば得るものはあるかもしれないけど、美術館で息絶えちゃいますよね(笑)。行き倒れちゃう。慣れてくると、サーっと飛ばしていても、見たいものが目にスッと入ってくる。
-: そして、そのときどきで、目に入ってくるものは違う。
伊藤: 骨董市でも、気にしていると目に入ってきたり、手に入ってきたり。
最近だと、珉平の黄色ですかね。なんか甘そうな感じに惹かれます。
あの手この手でやってみるんだけど、やはりなかなかあの色合いは出ない。
-: さて、二人展に向けてなにか一言ありませんか。
伊藤: ないです(笑)。いままで通りやるだけです。
-: なんだか、伊藤さんらしくていいですね。宜しくお願いします。