企画展直前インタビュー 雪ノ浦裕一
花田:小さい頃からもの作りには興味があったのですか。大学はたしか数学科ですよね。
雪ノ浦:小さい頃から絵をかいたり、物を作ったりすることが好きでした。
でも、大学は理数科。というのも、当時、教師になるつもりでした。
大学は美術系にも興味がありましたが、先生になりやすい理数系を選びました。
ただ、副専攻で、美術を取りました。普通、副専攻って英語とか社会学とかを選ぶんですけどね。
それなので、大学時代は古典絵画と数学を同時に勉強していた。
-: 数学と美術は相通ずるところ、多いですよね。
雪ノ浦:物みてきれいって思うことって、黄金比などといった、数学的側面も含まれていると思います。
そして、数学でも、数字の並びの美しさを認識するのは感性の部分。
数学もデジタルと感性の二面性を備えていることを感じていました。
-: 僕は文系ですが、僕の周りの理系の人たちをみると、数学者、理系の人たちって純粋なロマンチストが多いです。
雪ノ浦:他の人は分からないけど、ぼくはそうだよ(笑)
結局、数学科を卒業したあと、美術科に入るんです。
フレスコ、テンペラなんかを勉強していました。
-: 洋画中心だったんですね。
雪ノ浦:そう、最初は洋画に興味がありました。今はどちらかというと、日本画全般が好きです。
-: そこからやきものへ。
雪ノ浦:大学でやきものに出会って、興味を持ちました。
卒業後、地元の北海道に戻るんですが、
丁度、研修生を募集していた野幌の工業試験所の窯業分所に手紙書いたら、すぐ来てくれって。
なんか、陶芸について情熱的に書いた覚えがあるな(笑)
-: それで食器作りを始める。
雪ノ浦:芸術的なオブジェっぽいものを作っても、一般の人たちにはなかなか行き渡らない。
工芸の世界に身を置いていたかったし、普通の人の普段の生活に関わっていきたかったんです。
-: 元々、今のスタイルを目指していたのですか。
雪ノ浦:使いやすくて、自分の表現が適度に含まれていて、
そして出来るだけ仕事場に選んだ岩手でとれる地元の釉薬や土を使っていきたい、そう考えていました。
-: 工藤和彦さんも同様に、地元の材料を活用することに意を注いでいます。
雪ノ浦:その土地でしかできない表現というものがあると思うんです。
-: どんなに物流や情報技術が発達しても、風土が、その土地の人や物事に及ぼす影響は
非常に大きいし、勿論無視できません。
それらを排除したりコントロールしようとしたりするより、
うまく共存して活かす方向が日本人には向いていますね。
それぞれの風土や土地柄って、人が思い入れや愛着を持ちやすいものだと思います。
灰は盛岡のりんごを使っていますよね。
雪ノ浦:そうです。土も盛岡や花巻、遠野のあたりのブレンドです。たまに信楽のものを混ぜますが。
-: 岩手の土ってあまり聞きませんよね。
雪ノ浦:変な言い方になるけど、岩手の土って、ただただ素朴なんです。
真っ白とか、ねばりがあってこしがあって扱いやすいとかってわけじゃない。
でもね・・・なんか愛着を感じるんです。
土も釉薬も研究するのは大好きです。随分、データも蓄積されてきました。
-:そういうところは研究者ですね。
灰釉なんかも、おそらく普通の方法だと、あの透明感や明るさ、奥行きは出てきませんよね。
雪ノ浦:釉薬も三層から四層に分けて、配合を変えたものをかけています。
ベースになる一層目は雫石のりんご。二層目は長石を少し加えて紫波のりんごを使う。
三層目もほとんど同じだけど、長石の質を少し変えている。
素焼きが二回必要なものもあります。
-: あの感じを安定的に実現するの大変だったのでは。
雪ノ浦:最初は適当に混ぜて、適当にやっていた。
そうすると、いつも出来がぜんぜん違うんです。
今思えば当然なんだけど、そのうち、データをとってそれに従うようになりました。
-: そのうち、藍彩もできてきました。ルリ釉とは明らかに違います。
雪ノ浦:藍染の色って日本人は好きですよね。
ルリ釉の鮮やかな感じじゃなくて、灰が解けた感じの透明感を維持しつつ、
にじみ出てくるような色を出したかった。
-: オリーブ色も出てきましたね。
雪ノ浦: あれもいいでしょ。
-: 前から言っている、琥珀色は?
雪ノ浦:頭の中では出来ているんだけど、鉄って微妙で・・・
二月の企画展に間に合えばいいんだけど。
-:まあ、でも、雪ノ浦さんは仕事速いですよね。
うつわも、数をどんどん作る。
雪ノ浦:段取りは褒められます。工程の逆算や割り振りは得意なつもりです。
-: なるほどね。雪ノ浦さんのパワフルさと研究者的な部分の両面性が魅力的です。
これからも色々やっていきましょう。
雪ノ浦:今後ともよろしくお願いします(笑)
引き続き、お店のほうからのリクエストも大歓迎です。
これからも一緒にいいうつわ作っていきましょうよ。やっぱりお客さんに喜んでもらいたいですから。
-: これからも、遠慮しないで、色々リクエストしますよ!
雪ノ浦:はい。二月も宜しくお願いします。