ちょうど一年前、昨年八月頃のことです。
店にいると、フラリとあの懐かしい顔の中尾万作さんが現われました。
しばらくお目に掛かってはいなかったのですが、
万作さんと初めて言葉を交わしたのは花田を始めた頃ですから、
三十六年に渡る古い顔なじみです。
当時、万作さんは、花田創業時から現在まで一番長く緊密な取引が続いている
九谷青窯の主要なメンバーのひとりでした。
その個性的な人柄と仕事ぶりは特に際立ち、目立った存在でした。
万作さんは陶芸の道に入る前、伊豆で友禅の修業をしていました。
その頃、骨董の世界では知らぬ人とていない目利き、秦秀雄さんの知遇を得て友禅の道を断ち、
秦さんの子息、耀一さんが主宰する九谷青窯の門を叩いたのです。
友禅の修業をしていただけに、絵筆を持たせれば、
最初から傑出した才能を発揮したと聞いています。
其の筆勢はリズミカルで躍動的、とくに網目や秋草といった単純で、
それでいて表情の豊かさが求められる文様などは御手の物…、
うつわの中で一本一本の線が命を与えられて溌剌と弾んでいました。
初めて目にしたのは、直径三十センチはあろうかという網目の大鉢と、
直径二十四センチの武蔵野鉢と呼ばれている深鉢で、共に未だに我が家で愛用しています。
見ているだけでウキウキしてくるようなうつわですが、
決して盛り付ける料理の邪魔をしない、掌にスッポリと包み込んでくれる懐の大きさを感じます。
古染付や古伊万里にもよく見られる網目や秋草ですが、
万作さんの文様の醸し出す雰囲気は、
そうしたどの古典の範疇にも属さない独特の世界のものです。
当時の九谷青窯の他のスタッフたちも、何とか万作さんの線文様に肉薄したいと憧れたようです。
独立して以来、どういうわけか花田とは縁のなかった万作さんですが、
昨年フラリと現われたことを切っ掛けにトントン拍子に話は進み、
八月二十八日(水)からの個展開催の運びとなりました。
多様化した現代の食生活に対応すべく、
最近の万作さんの作るうつわは、アイデア溢れる機知に富んだ楽しいものとなり、
また、染付だけではなく色絵も駆使して、ダイナミックな雰囲気が面白いという人もいます。
お付きあいのなかった長い期間に、
才能溢れる万作さんはどのような変貌を遂げているのでしょうか。
今、私の胸中は、有望新人が開く初めての個展を控えているような、
あの新鮮で複雑な期待で、弾けんばかりなのです。
うつわを手に工房を案内してくれる中尾さん | 素焼きのうつわが並びます。 |
大きな窯で焼成します | 今回登場するレンゲ3種。 絵付けのバリエーションも豊富です |
中尾万作さんは、28日(水)から31日(土)の4日間、花田に来店の予定です。
■企画展名
彩、さまざま。才、まざまざ。- 中尾万作 展 –
■開催期間・場所
期間 : 2013年8月28日(水)~ 9月7日(土) ※期間中無休
場所 : 「暮らしのうつわ 花田」 2Fギャラリースペース
■展示内容
取皿、盛皿、小鉢、盛鉢 飯碗、猪口、片口 ヨーグルトカップ、スープカップ 他多数
■作者プロフィール
中尾 万作(なかお まんさく)
1945年 大阪府狭山市生まれ
京都市の友禅染工房、静岡県伊豆市の染工房にて絵師として技術を磨く
1973年 石川県能美市の九谷青窯に入社
1988年 大阪府狭山市にて「星々居」築窯