先日、花岡隆さんの工房を訪問してきました。
花田では六年ぶりとなる、来週水曜日、
14日からの個展「花岡隆展 ― 研鑽のモノクローム ―」の準備のためです。
花岡さんの工房内。 | 完成が待ち遠しい、ポットの数々。 |
到着し、「こんにちは」と開け放しになっている仕事場入口をくぐると、
轆轤台の前に座った花岡さんが今まさにそれまで仕事をしていた様子で
「どーも。こんにちは。大体ポットは100ケくらい作っているんだけど、足りるかなあ」
と開口一番、投げかけてきました。
そして、燻す前の黒陶ポットが並んだ窯の前に導き
「取り敢えず、花器とポットはこんな感じで進めている。食器はこれから本格的に作るけど」
と説明してくれました。
花器や大鉢、大皿を始めとする素晴らしい一点ものの数々、
行儀よくずらりと並んだポット・・・
いわゆる情熱や高き志などを表面に出す人ではありません。
口調はいつも通り、むしろいつも以上に淡々としていましたが、
一ヶ月後に迫った花田での個展に真っ向から取り組む花岡さんの姿は、
到着前に感じていた私の不安を笑い飛ばすかのようでした。
いつもとは明らかに違う今回の訪問でした。
通常、音楽や料理その他、様々な話題に触れつつ、
花岡さんが考えていることや、
その時の仕事内容の輪郭を確認していくのが大抵のやりとりです。
その日もいつもの習慣で、お互い色々な話をしてみるのですが、
いつもと違って、話が切り出されたきり、それ以上盛り上がろうとしないのです。
何か別の事を考えながら、ただ言葉を発しているような・・・
また、いつもなら見本場兼倉庫に行く時は一緒に来て色々と説明してくれますが、
気づいたら後ろに花岡さんはいませんでした。
そそくさと仕事場に戻って、作業を再開していました。
うつわ作りに打ちこむ花岡さん。 仕事に対する真摯な姿勢が伺えます。 |
ポットのふた。きれいな仕上がりは 細部にまで至ります。 |
一カ月足らずのうちにいくつもの一点ものを作った上で、ポット100ケを作り上げる。
これは正に職人の仕事と言えます。
お洒落や洗練といった言葉で評される全体の印象や、
料理に対する懐の深さや使いやすさで語られることが多い花岡さんのうつわ。
ただ、その花岡STYLEが流行としてではなく、
長きにわたる支持を集めてきたのは、
そのベースに陶工としての職人魂があるからこそなのです。
今回、花岡さんの仕事に打ち込む姿を前にすれば、そう認めざるをえません。
うつわからまず受ける印象とは違う、静かに燃える陶工魂。
それはうつわを使い続けていくと気づくことでもあります。
手なれた面取りや高台周りの細工、
或いはポットのふたの取っ手に至る細部まで手を抜かない、
仕事に対する真摯な姿勢。
これこそが花岡さんの仕事の本質であるんだと。
いつだったか、
「若い作家には『あんな花岡みたいなうつわ、簡単にできるよ』って
思っている人達も多いんじゃないか」
とおどけながら発した、花岡さんの言葉が頭をよぎります。
謙遜に聞こえるその言葉は、実は独特の表現による確固たる自信の表れでした。
完成間近の、100点にも及ぶ 様々な形のポットが並びます。 |
黒陶のポットや花器、 お皿が勢揃いしました。 細部にまで至ります。 |
花岡さんが、これまで積み上げてきた研鑽。
仕事に傾けてきた精魂が丁寧に重なり続けてきたからこそ、獲得された知恵と手わざ。
そして、心意気。
今回、それらが凝縮し、うつわとしていきいきと生まれ変わります。
力のある人間が本気を出すということはこういうことなのか、と実感した訪問でした。
今回の個展は現時点での集大成とも言えるラインナップを展開。
研鑽のモノクローム―非常に見応えのある内容となっています。
■企画展名
花岡隆展 ― 研鑽のモノクローム ―
■開催期間・場所
期間 : 2012年2012年11月14日(水)~ 24日(土) ※期間中無休
場所 : 「暮らしのうつわ 花田」 2Fギャラリースペース
■出品品目
ティーポット、盛皿、盛鉢、湯呑、カップ、酒器、花器 他
■作者プロフィール
花岡 隆
1952年 北海道小樽に生まれる
1973年 伊賀の番浦史朗氏に師事
1980年 静岡県修善寺に築窯