3月の「花田の新作」は、村田森さんの白磁八角小鉢です。
「骨董の模し(うつし)をきちんと出来る作者の方というのは、しっかりと力を持っているのでしょうね」
今月の新作、村田森さんの白磁八角小鉢を見て、あるお客様はおっしゃいました。
さらりとした口調ではありましたが、説得力のある言葉です。
村田さんの仕事場へ、初期伊万里白磁八角小鉢を持参したのは2月の初め。
「初期伊万里でしょう」
「いや、初期の柿右衛門である気がします」
「それにしても綺麗ですね」などといったやり取りののち、
「模し、やってみませんか」と切り出すと、「やってみます」と即答。
できれば3月上旬くらいまでに、などとの無理なお願いにも、
「時間ないけどやってみますよ」と笑いながら返してくれました。
3月に入りしばらくすると、小鉢が花田に届きました。
ため息の出るような完成度。
わずかな自然光ですら完全には遮ることはないその薄さ。
風に靡いているかのようなひらりとした全体のフォルム。
やわらかく、シャープな面取り。
そして、日頃からの村田森さんの材料、製法への徹底追求の賜物であろう、見事な「白」色。
心の高鳴りをおさえながら、電話で感想を伝えると、
「まあまあ、いいでしょう」とセリフはまるで他人事のようでしたが、
その声振りは確かな満足と自信に満ちていました。
土、釉薬といった材料、轆轤、型づくり、面取りといった成型、薪窯での焼成など、
制作過程での話を一通り聞きました。
特筆すべきは、
それらの工夫や苦労が ―恐らく村田さんにしか出来ない難しい仕事であるにもかかわらず―
うつわから僅かも感じられないのです。
もはや作り手の影すら感じないといっても過言ではなく、
うつわがずっと前から存在していたかのような気配です。
本歌への肉薄、凌駕を図る模しという行為が、
今回確かに成し遂げられた証しなのかもしれません。
うつわに同封されていた村田さんからの便りには、
「やはりあの白磁はキレイですネ」と書き添えられていました。
伝統や古典といったものへの素直な愛情や敬意も、陶芸家の一つの才能です。
本歌を作った名もなき300年前当時の作り手はこの模しを見て、なんと言うのでしょう。
「よく出来ましたね」と感心するのか、
「大変だったでしょう」と労うのか、
「やるな」とニヤリとするのか・・・
知る術はありませんが、
うつわを通じて作り手と作り手が何かの部分で結ばれたことは間違いありません。
Great Job!
これは称賛されるべき仕事です。
見事に甦った300年前の名品をご覧ください。