12月の「花田の新作」は、
玉山保男さんの本朱鑿目皿(のみめざら)と蓋朱汁椀の2種です。
日本産漆の最大産地である岩手県北部、浄法寺で作られる漆器が浄法寺塗。
途絶えた時期もありましたが、30年ほど前、岩舘隆さんらにより見事に再興を果たしました。
その歴史は1300年を遡ります。
技術や精神といった伝統を重んじながらも、
生活様式、食文化の変化も柔軟に受け入れてしまうのが浄法寺の漆器。
多種多彩となった料理をすんなりと受け入れる包容力、
現代の食卓にも抵抗なく溶け込んでしまう柔軟性には、
1300年という歴史、伝統といったものの懐の深さを認めざるえません。
玉山保男さんが「できましたよ。これ、見て」と花田へ持参してくれた今月の新作。
宅急便にかかる一日すらを惜しむかのような岩手県浄法寺からの新幹線での納品でしたが、
新作を前にした玉山さんのその表情は「色々と説明しないけれど見てくれれば分かる」といった態でした。
まず、本朱鑿目皿(のみめざら)。
朱と紅、絶妙の配合が実現する玉山氏独特の”本朱”の色調、そしてあのしっとりとした感触。
漆への愛情溢れる、丁寧な塗りは漆そのものの良さを活かし切ります。
木地も圧巻で、まさしく名人芸。
見込み中央に向かってぼんやりと消えていく鑿あとが木地の上を駆け、
全体のバランスを考慮し表裏交互に刻むように施された鑿あとの配置は横からの景色、
持った時の感触に安定感を与えます。
木地、そして塗りそれぞれの充実が共に獲得されてこその完成です。
お互いの仕事振りを知りつくしている木地師佐々木米蔵さんと塗師玉山保男さんだからこその実現とも言えるでしょう。
しばらくして、木地師である佐々木米蔵さんに電話に興奮気味にその感激を伝えました。
「今回の木地は栗じゃなくて、ホウノキ。柔らかくて鑿(のみ)が運びやすいんだ」
とゆったりといつもの調子で一言。
電話をかける前、
それらしい苦労話や発想めいたことを少なからず期待していたこともすっかり忘れ、
玉山さんが新幹線で納品に来て驚いたことなどを話しつつ、
「雪が溶けるころにでもまたそちら(岩手県二戸)へ伺います。桜までは待てないと思いますけど」
と電話を切りました。
二つ目の新作は、朱蓋汁椀。
古都京都にて江戸時代より愛用された椀が今様に甦りました。
モダンな朱と黒のコントラストは目を引き、
オーソドックスを極めたかのようなかたちは、
漆器こそ長く使い続けるものであることを宣言しているかのようです。
それにしても、見ているだけで出汁が恋しくなってしまう汁椀です。
極上の椀ものをお楽しみください。
浄法寺の漆器を支える名工達。
モノ作りと正面から対峙し、よりよいものを作ることのみへの終始は、
脈々と受け継がれてきた遺伝子、
そして、決して多弁でも派手でもないが朗らかで健康的な人柄、暮らしが支えているのでしょう。
彼らの姿勢にモノ作り本来のあり方を見せつけられた気がします。