共用品推進機構 星川安之氏×花田店主 松井英輔 -後編-


interview

「特別」を減らしたい -後編-

共用品推進機構 専務理事 星川安之

星川安之さんは、トミー工業株式会社(現タカラトミー)にて目の不自由な子どもたちも
遊べるおもちゃ作りに取り組み、1999年に共用品推進機構を設立。
障がいの有無や年齢の高低に関わらず使うことのできる、共用品の普及に尽力されています。
そんな星川さんに、活動のこれまで、今、これからのお話を伺いました。
前編に続き、後編をどうぞ。



無邪気な連中が見つけたもの

花田: やっているうちに、話しが速く大きく動き出す。
そのうち、今の共用品推進機構の原型ができるわけですね。(以下 花田-)

星川: 共用品という名前も、―当時はユニバーサルデザインという言葉も普及していなかったし―いまさらカタカナなんて使わずに、名前を付けようということで決まりました。
とにかく楽しい8年間でした。
みんなが割と無邪気に、一緒に考え、同じ方向を見て行動していた気がします。
作りあげていく楽しみもあったし、調べていけばいくほど、いろいろなことが分かってきました。
プロジェクトには障がいのある人たちも多くいたので「一緒に解決」という形が自然だったのだと思います。

-:  当事者の人にも協力してもらったのですね。

星川: 陳情や文句じゃなくて、一緒に考えましょう、ということです。
結果、調査をしたら、すごい量の不便さが出てきてしまったのですが(笑)。
無邪気な連中が無理やりパンドラの箱を開けてしまったわけです。
開けしまったからには元には戻らない・・・

-:  印象に残っている不便さは何でしたか?

星川: 視覚障がいの方に「ポストに入ってくるものが何か分からない」と言われました。
郵便物がくると、親しい人にそれをFaxした上で電話して、なんて書いてあるか聞いていたらしいです。 見えない人がそんなにファックス使っているなんて知らなかったから、驚きました。

-:  それも解決を目指したんですか?

星川: 直接的に目指してはいなかったけど、しばらくして、文字をスキャンしたら音声で読むものが出てきました。 我々の進め方は一通りでなくて、直球で投げてそのボールを受け取っている人たちもいれば、そのキャッチボールを横で見ながら「あ、これもできるよな」って、取り組んでくれる人たちもいました。

星川: 体重計の話もありました。
音声で体重を教えてくれるものが出て、すごく売れたのですが、しばらくすると「なんで自分の体重を他人に聞かせなければならないんだ」ということになってきた。
そのうちコードの長いイヤホンが付くようになりました。

-:  “配慮”や”気遣い”は大切なのですね。

星川: そうこうしているうちに、何年目かで、自分たちが投げた球に、名だたる大企業がすごい球、反応を返してくれるようになってきたんです・・・

-:  何がきっかけだったのですか。

星川: メディアも後押しをしてくれました。何をやっても新聞やテレビが取り上げてくれました。
例えば、ある日、朝日新聞のベテランの記者が取材に来られました。名刺を交換するわけでもなく・・・
そうしたら、その週の日曜の早朝寝ていると、友人から電話がかかってきて「お前、今日の天声人語の最初に『星川安之さんは入社して14年、トミー社の社員である』って書いてあるぞ」って。
あれは不思議な一日でした。
家にいても落ち着かないから、妻と外出したのですが、みんなが自分のことを見ているような気がして・・・。社内でも「星川ってあんな仕事していたんだ」って、話したことのない先輩に言われたり「お前、いい仕事しているね」って褒められたりして。
そして、天声人語って、年末に一年間の振り返りがあるんです。
「今年会って驚いた人」として「名刺も交換せずに・・・」ってまた僕のことを書いてくれていました。
結局その人とは、飲み友達になっちゃった(笑)。




言い訳できない

-:  星川さんの人間性や取り組み方にひきつけられて色々な人たちが集まってくるのですね。
星川さんは、どういうことも明るく楽しそうに取り組めてしまうから。

星川: 僕自身、障がいがある人たちとの壁は薄いと思っているんです。
どちらかと言えば、障がいのある人たちに対して「もうちょっと冷静になって」って思っています。
怒ってもしようがないから。
障がいに対して、偏って変に思っている人を見ると、 そこまで頑張らなくていいのになって、言いたくなることもあるし。

-:  それが、今の共用品や共用品推進機構のありかたや、理想像に繋がっているような気がします。

星川: その天声人語の記者さんに「星川は強いよ。星川の組織は強いよ」って言われたんです。
「ぜんぜん強くないじゃないですか。なんでそんなこと言うんですか」って聞いたら
「組織や自分のことを守ろうとしていないから」っておっしゃるんです。
「内心守るつもりだったんだけどな」なんて思いながら、頷いておきましたが(笑)。

-:  (笑)ま、そういわれれば、その気になりますよね。

星川: そういうことです。もうその人、亡くなってしまったので言い訳も出来ないし、 そういうことでやっていくか、って感じです。

-:  一緒に飲みながら、星川さんのこと、そんな風に見ていたのですね。
星川さんには色々な仲間や理解者がいますね。お父様も玩具のお仕事をされていたのですよね。

星川: はい、玩具の開発の仕事をしていました。
私が7歳のときに、仕事中の交通事故で他界しました(父は当時38歳)。どんどん出世していたらしく、 うちの家系の中で父だけは優秀だったようです・・・って言っちゃあ、他の親戚に申し訳ないけど(笑)。



こちらの共用品推進機構には、これまで紹介されてきた製品が並んでいます。
おなじみの製品の数々、さまざまな工夫に驚くばかりです。



「特別」を減らしたい

-:  共用品という言葉についてあまり知らない人にはどう説明されるんですか。

星川: 私は「共用品」や「ユニバーサルデザイン」という特別な言葉は なるべく早くなくなれば良いなと思っているので、 共用品の周辺―人々や起きていること―については話をしますが、 言葉の定義についてはあまり説明をしていません。

-:  最終的なゴールは、この機構がなくなってしまうことだ、ともおっしゃっていました。

星川: どこかが中心になって行いすぎると、文化として分散していかないと思います。
共用品推進機構がその作成に関わっているJIS規格も配慮点の最低ラインを決めているだけです。
そんなJISも参考にしてもらいながら、例えば、二階建てバスの二階に車椅子を使用している人も 上がれるのが普通になればいいなと思っています。



みんなのアイデアに涙

-:  最近、取り組んでいることなどはありますか。

星川: 「目が見えない・見えにくい私だからかんがえついた”とっておきのアイディア”コンテスト」を今年初めておこないました。
障害の有無にかかわらず、「受動」から「能動」に変化するきっかけになればと思い、目の不自由な人から夢のアイディアを募集したのです。
約200点応募されたアイディアは、どれも説得力のあるものでした。

-:  凄い内容だったのですか?

星川: 凄いです。ユーモアのあるものもありました。




シャンプー容器側面のギザギザ。もうみんなが知っている共用品です。
実は正面から見ると凹凸は見えないよう、側面の中心からずらしたところにギザギザをつけています。



まだまだ終わらない

-:  これからの取り組みについて教えて下さい。

星川: 我々は、不便さ調査をして、一つずつ解決策を打って、 その都度JIS規格にしてISO国際規格にもしてきましたが、 それらをあらためて整理統合しようとしています。
使用者が自分が使えるものはこれだ、って選べるデータベースを構築するわけです。
あと、JISでは共用品の適用範囲に医療品が入っていません。
今後、在宅医療が増えてくると、問題が色々出てくるはずです。
字は小さいわ、音は小さいわ、使用方法が複雑だわ・・・
共用品的な配慮を在宅の医療機器にも入れられるような組織が必要で、今その準備をしています。

-:  色々、ご苦労もご努力もされながらここまで来たと思うんですが、
ここまで結果がドンドン出てきたのって、なんなのでしょうね。

星川: 結局ね、最初の応用問題がまだ解けていないんです。

-:  学生時代に突きつけられた問題をいまだに解き続けていると・・・

星川: 時々解けたと思うと、その倍以上の問題が降ってくるんです(笑)。それが面白いんですけどね。

日本経済新聞からマンション会報まで

-:  今は、日本経済新聞の連載を始め、色々と世の中に伝えるお仕事もされています。

星川: 自分たちからも情報を発していこうと思っていたところ、 色々な機関誌から執筆の依頼をいただき、今は10本連載を抱えるようになりました。

-:  星川さんらの様々な取り組みを少しでも多くの人々に知ってもらいたいと。




星川: よく話すのは、かしわ餅の話です。
江戸時代、柏餅は、葉の表を外側にして包むか内側にするかで、中身をあんかみそかに見分けていたのです。
目が不自由な人たちも葉の表と裏は触って分かるので、目の不自由な人たちへの配慮にも自然となっていました。
江戸時代から共用品はあったわけです。
ただ、こうゆうことを知っている人は少なく、伝えていく必要性やその方法も大きな課題です。

-:  それにしても、10本の連載は多すぎませんか(笑)。

星川: そうですね。マンションの会報にも書かせてもらっていますが、楽しんで書かせてもらっています(笑)。

-:  天声人語からマンションの会報まで(笑)。
星川さんと会っていると、サッと書いてくれそうな気がするんでしょうね。
先日は、ベトナムにも行かれていたのですよね。

星川: 一昨年から今まで連携していなかったアジアの国々、 ベトナム、ミャンマー、インドネシアの視覚障害者の団体を回って、一緒に何かしようっていう話しになりました。
ニーズも違います。「掃除機じゃなくてほうき」だし「ガスコンロじゃなくて炭」。
状況改善のためには、まずそれらの問題を多くの人に知ってもらわなくてはなりません。
で、「不便さ調査」をみんなでしましょうと。
およそ300名の視覚障害者に話を聞いて、報告書として業界や国に提出して、その展示会をしました。
そうしたら、セレモニーはすごいわ、歌は歌うわ。なかなか賑やかなセレモニーでね(笑)。
たくさんの方々が来てくれました。





高台際に溝をつけて、指が自然とかかるように工夫が施された汁椀です。



MOASを見つけてくれて

-:  星川さんと花田のお付き合いは、MOASのうつわがきっかけでした。

星川: 特にあの汁椀には「その手があったか!」って、衝撃受けました。
お椀の高台まわりの手がかりは、お椀を持ち上げて、初めて気がつくじゃないですか。
配慮の仕方に、作者のプライドを感じます。

-:  一見、福祉用品には見えないけれども、使いやすい。
MOASのうつわは、既定の図面を元にはしていません。
調査してまとめ上げた5つの要件を目指して、各作者と進めていったものも多いです。
そうすると、愛情表現が人それぞれなのと一緒で、作者ごとに考えだす工夫も変わってくる。
持ちやすいと言っても、軽くする作者もいるし、取っ手をつける作者もいる。
まあ、それもいいかなと。そして、何度も試作品を作るうちに色々練れてくる。
見た目にもうつわとして魅力的なものに仕上がっていくんです。

星川さんからの助言

-:  これから共用品を作ろう、目指そうという人へのアドバイスは何かありますか。

星川: 最後の姿を想像する、ということでしょうか。
「何をこの人は望んでいるか」「何がこの人を楽しくさせるか」というところからスタートすれば、色々な発想が生まれてくると思います。

-:  星川さんはヴィジョンというか、笑顔がある風景をすごく天然的に描ける方なんだな、と思います。
そのためには、そういう人たちとの実体験をベースにした共感も無ければいけないし、 知識も無いといけない。
そうでないと夢物語で終わってしまいますから。

星川: ディズニーの人と話していても似たようなものを感じます。
「この人がどうやったら笑うか」とか「どうやったら感動するか」とかってことを、 日頃から実に真剣に考えているんです。
例えば、MOASのこの「倒れにくい」「持ちやすい」・・・という5つの要件も一つの最終形です。
日本人としたらスッと入ってくるのではないでしょうか。
こんな優しい言葉、聞けば当たり前のようだけど、決して当たり前じゃない。
そして、その言葉を目指してみんなで作っていくっていうのが、いいなって思います。
ギチギチ寸法決めているわけじゃないから、色々アイデアが出てくるというアプローチもいいですよね。 商品の名前ね「高齢者に優しい」なんて言ったら買いづらいけれども(笑)、これだと買いたくなります。

-:  有難うございます。最後に何か、MOASにリクエストありますか。

星川: 美味しいものを美味しく食べていたい。花田さんのこれから、MOASのこれから・・・とても楽しみにしています。

-:  一番うれしい言葉です。有難うございました。




「ユニバーサルデザイン」という言葉や考え方が今のように普及する以前も含めたお話でした。
そして、始まりは一人の若者の小さな想いだったとしても、本人が本気で、
そしてそれが世の中にとって必要なものであれば成就するという一つの物語には説得力があり、強く心打たれるものでした。
星川さんの物語、これからも続きます。




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「特別」を減らしたい -前編- 共用品推進機構 専務理事 星川安之・・・2017年1月13日公開

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