青山徳弘さんと言えば「線」。
麦藁文に始まり、木賊、輪線等々、シンプルだからこそなかなか極め切れないのが線の仕事。
青山さんの真骨頂である「線」の話になると、会話はいよいよ熱を帯びてきます。
青山さんには5月に向けてどのような構想があるのでしょう。
─ 青山さんと言えば、麦藁を始めとする線の仕事です。
青山:この仕事を始めた頃、父親に「線をちゃんと引ければ、なんでも描ける」って言われて、
ずっと朝から晩まで麦藁や木賊ばかり書いていたんです。
単純かと思っていたら、これが実に難しい。
知れば知るほど、その奥深さを実感するようになりました。
シンプルだから自らの未熟をごまかせないんですね。
もうとにかく線ばかり描いていたので、今では体に染みついています。
父の言葉を借りれば、絵付けの多くは線の組み合わせ。
唐草にしても祥瑞にしても結局は線の組み合わせです。
上手、下手は世間の評価になってしまいますが、自分にとって線は仕事の軸となるものです。
まだまだですけど。
─ まだ終着点ではないのですね。
青山:もちろん!(弟子の李氏が登場)あっ、李さん。彼いないと、僕、線引けないから(笑)。
李はね、轆轤がほんとに上手いんです。
この辺もほとんど李だな。僕が引いたのこの一個だけだ。
話戻りますけど、これからもね、この線をどう遊ぼうかってワクワクしているんです。
いつまできちっと描けるか分からないけど、
これからも線の仕事は伸ばしていきたいし、色々展開していきたい。
─
線にも色々ありますけど、
青山さんのは、それこそ天に向ってぐぐっと伸びていくような、
筆圧をそのまま感じる、力強い線が多いと思います。
線の中でも正当派と言えそうです。
青山:弟子にも言いますが、線ってね、
丁寧に引けばいいってもんではなくて、でも逆に早く引けばいいってもんでもなくて、
つまりスピードの調節だけでは線がまとまっていかない。
ただ描き急いでも、何のまとまりもない、しかも勢いのない線になってしまいます。
─ 勢いというのはスピードもあるけど、力もあるのでは。
青山:そうですね、力強さ。加えて、スムーズさというかリズムも大事です。
わだかまりのなさ、というか。
─ そうですね。青山さんの場合、納得のいった生地に思いっきり線引いてるなって感じがします(笑)。
青山:これなんか、見て下さいよ。
普段は無いはずの轆轤目が却っていい味を出しているんです。
良い悪いってわけではなくて、引いてくれた生地を見て
「これをどうこなそうかな」って取り組む時は、冥利につきます。
─ 花田から骨董の模しなどを頼むと、本歌を凝視されていますよね。
青山:形はもちろん見るけど、それだけじゃない。
模しってのは、姿形をどんなに完璧に模倣しようとしても、そういうことではない部分がある。
模すには筆運びとか、テンポとか、その辺を自らのものにするんです。
また、文様にしてもランダムに描いているように見えて、ほとんどの場合原則があります。
それを見つける。また、うつわを通じて当時の作り手のことも想像するんです。
この間、花田さんが持ってきたあのゴス鉄の麦藁手はすごかった。
正直、うつわを通じて当時の職人に負けん気が沸々とね、
「こいつ、やるな、負けてられないぞ」と(笑)。
─ 話戻りますけど、松葉文を模した時も、松葉の数を数えたことないとお話しされていました。
青山:ないですよ。
─ 原則やテンポさえつかめば一気にいける、そういうことなのでしょうか。
青山:数を知っちゃうと、テンポや間を無視して、決まった数を無理やり入れ込もうとしちゃうんですよ。
それは駄目。だって、当時の職人がはじめに「よし38本松葉をいれよう」
なんて決めてから描き始めているはずがない。
─ 青山さんと話していると、
「テンポ」とか「間」とか「おさまり」とかいう言葉が良く出てきます。
青山さんが何を大切にして仕事をしているのか伝わってきます。
青山:そうですね。いい時は、その辺がうまくいっているんだと思う。
─ 模しにしても、青山さんのオリジナルにしても、引きつけられるお客様は多いです。
あの鉄ゴスの飯碗にしても、「あの飯碗を使い出してからコメの消費量が増えた」という人もいたくらいです(笑)。
青山:本当にうれしいです。
特に飯碗はほぼ毎食、しかも手にとって使いますからね。
「飯碗が変われば人生が変わる」かな・・・あと、飯碗以外でも、使い手の方々には
自らうつわの用途を開拓していく過程も楽しんでほしいな、そう思います。
─ さて、5月の「私のしごと、私のうつわ」に向けていかがですか。
「私のうつわ」といって、自らのために作ると言っても
「使いたいうつわ」「憧れていたうつわ」「夢のうつわ」「得意な器」など、作家さんによっても色々です。
青山:僕の場合、いつもの仕事を思いっきりやりたかった。
これだけ思いっきりさせてもらえるとね、光栄ですよ。
僕にとっての「私のうつわ」は「自ら使いたい」うつわというよりは、「自分が表現したいもの」なんです。
思いっきり表現したい。用途はその後に出てくる感じです。
─ となると・・・
青山:線の仕事は勿論。あと、松葉文も入れたいですね。大きさは3種類。
─ あの真ん中の皿なんか、鰺のさしみなんかに良さそうですね。
ちらし寿司の取り皿にも・・・。
青山:食べ物でいえば、小さい頃はよく親父が山からやまいも取ってきてくれてね。
いまも時間があると自分で取りに行く。この片口鉢なんかとろろかな。
─ え、一人分?
青山:いやいや、一人分ではないです(笑)。
─ いずれにしても、5月は青山さんの仕事を堪能するのが今から楽しみです。
青山:こちらこそ自分の仕事を堪能させてもらえそうです。楽しみです。