ヒヅミ峠舎さん作者インタビュー2024


沖縄へ

花田: 三浦さん達はどういった経緯でうつわ作りに関わるようになったのですか。(以下花田-)

三浦圭司:学生時代の下宿先の近所に濱田庄司さんの生家がありました。
近くの美術館にも、濱田さんのものがいっぱいあって、民芸に興味を持つようになりました。
その後も、なぜか出会う人が結構焼き物に関わっていて、20歳ぐらいの時に、気がついたら「こういう道に行くんだな」みたいな気分になっていました。
で、京都の訓練校のあと、沖縄で修業しました。金城次郎さんの仕事が好きでしたし、あの沖縄の開放的な雰囲気が好きで、松田米司さんのところへ行きました。
金城さんのビデオ見ていても、外で仕事していたり、夕焼けだったり・・・。最高じゃないですか。

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色々な人生・・・

三浦アリサ:私は沖縄で生まれ育って、ずっと油絵を描いていていましたが、北海道の大学では彫刻を勉強し、卒業後、沖縄の病院の精神科で、患者さんに絵を教える仕事をしていました。
そこには、本当に色々な人がいます。色々な人生があって、色々な死がある。
それぞれの生き方や死に方に直面するうちに骨壺の存在を再認識した、というか・・・「人間が1番最後に返るのは焼き物なんだよな・・・」ってあらためて気づいたんです。
與那原正守さんに弟子入りしました。主人の修行先も同じやちむんの里で、主人とはそこで知り合いました。

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-:色々な人生、死・・・。

三浦アリサ:基本は閉鎖病棟で、施錠されている状態で暴れる人とか、警察に連れられてくる人とか、家族に「自分たちの家族じゃないです」って言われる人とか・・・。
兄弟全員で入ってきて、何十年もそこで入院生活を送っていたり・・・。親子もいました。
或いは、すごく有名な方の弟さんで、でも、その家族が面会に一度も来ないとか・・・。
その方も、結局そのまま亡くなってしまった。
前日まで、元気で、たくさん笑っていたのに自殺・・・というのもありました。
誰もが、なり得ることですよね。きっかけは些細なことからで、自分で解決できないまま、ずっとずっとほつれていって、眠れなくなって、妄想が広がっていって、という方がほとんどでした。

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始まり

三浦圭司:その後、僕の地元の山口周南で独立しました。
染付や赤絵など、技法としては伝統を抑えながら、つくりで面白いものやっていこうとしました。
で、僕から妻に結構提案していたのですが、アリサは沖縄でもそういうことはやったことがないわけです。

三浦アリサ: (圭司さんの)言っていることもよく分かりませんでした。
「ダミって何?」みたいな、そんなことからだった。

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三浦圭司:絵付けはアリサ、素地は僕で分担していく中で、お互いにとっての共通言語が出来るまでは苦労しました。
別に古典を写してほしいわけではなくて「構図はこういうことだよ」と伝えようとしても、アレルギー反応が出るというか…。

三浦アリサ:きちんとその通りにやらないといけないと思い込んでいました。

三浦圭司:目指していたのは「パッと見、昔のものに見えて、よく見たら、現代の作家のもの」みたいな感じだったのですが、その雰囲気を共有できるまでに時間がかかったね。

三浦アリサ:そんな中で、中国の影響を受けたイギリスの焼き物を見た時に、自分の中で「あ、こういうことかな」ってストンときました。
外国の面白い文化を自分の中で解釈して表現するということが、楽しく思えたんです。

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とりあえず、ついてきてください

-:それから今のスタイルが定まっていたのですね。

三浦圭司:いやそれが、定まる前に、ちょっと営業したら、仕事がどんどん決まっていってしまったんです。

三浦アリサ:なんか、やるしかなくなってしまった。

三浦圭司:「作家性のぶつかり合い」みたいな格好のいい話ではなくて、とにかく結果を出さなければならない状態でした。
で、アリサに「『やりたい』『やりたくない』はあると思うけど、話し合っている時間がない。失敗するかもしれんけど、とりあえず自分についてきてください」と言って受け入れてもらいました。

-:その状態で営業に行くのもすごいと思います。

三浦圭司:「その勇気だけは買うわ」ってよく言われます(笑)。

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勘違い

-:圭司さんも京都の訓練校で絵の勉強をされています。

三浦圭司:習ってはいるけど描けないです。描けないのに、めっちゃ偉そうにアリサに教えていました。
「そこまで言うなら、自分で描きなよ」っていつか言い出すだろうなと思っていたんですけど、言わないんですよ。
「素直だし、人間、できているな」と思っていたら、大分あとになって勘違いであることを知りました。

三浦アリサ:あったねー(笑)。

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三浦圭司:京都の頃の自分の作品の横に、骨董の龍文様のそば猪口を置いていたんですけど、妻は、それを僕の作ったものだと思い込んでいたんです。

三浦アリサ:すごい上手いと思っていました。

三浦圭司:上手いのに敢えて描いていないと思っていた・・・。
「お手本見せて」なんて言われていたら、終わっていましたね(笑)。

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三浦アリサ:知らない名前とか言葉とかいっぱい言ってくるし・・・。

-:勘違いしたまま圧倒されているという・・・(笑)。
本人も、うそをついているつもりも、上手い振りをしているつもりもないから堂々としていて、ますます強いですよね。

見ていて気持ちいいものの法則

-:モノを作る上で大切にしていることを教えていただけますか。

三浦圭司:モチーフやスタイルは変わっていくものですが、それぞれ編集はきっちりやっていきたいです。
例えば、昔から使われているデザインや割り方は長い時間の中、人の目をくぐり抜けてきているわけですよね。
そういう原則には則っていきたいです。以前は色々指摘していたよね。

三浦アリサ:当時は「描ける人」だから(笑)。
「言うこと聞いていればそのうちできるようになるんだろう」って淡く期待しながら従っていました(笑)。
ただ元々、考え方にはすごく共感しているんです。
例えば、自然界も近くで見るとでたらめに枝が伸びていたり、草が生えていたりしますけど、遠くから山として見ると綺麗な三角ですよね。
見ていて気持ちいいと思う中に、法則や意味があるんだろうなって。
多分、焼き物にもそういう法則があるんだと思っています。

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様々なモチーフ

-:三浦さん達の仕事は、モチーフも幅広いです。

三浦圭司:バイキング、北欧のトランプ、時計の中身、色々な国の神話・・・。

三浦アリサ:「残しておきたいな」と感じるものです。
神話は割と長い間私たちの間では流行っていました。色々なことの起源を知ることが出来ました。

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三浦圭司:焼き物を学んでいると、どうしても、そういうことにつながっていきます。
「ロマネスクをやろう」となって旧約聖書を掘り下げていったことがきっかけでしたが、そこから世界中の神話が繋がっていることを知りました。
カメラも流行ったよね。アコーディオンとか、地球平面説とかも・・・。

-:地球平面説まで・・・。

三浦圭司:大きな亀の上の3頭の像が地球を支えている絵、あるじゃないですか。
あれでコンポートを作りました。

三浦アリサ:オブジェではないところが、すごいなと思います。

三浦圭司: ウロボロスがいてね。

-:楽しそうにお話しされますね。

三浦アリサ:なんか楽しみや面白さがが凝縮されているものでした。
遠くから見たら、ただの花器のようなコンポートにしか見えませんけど(笑)。

「上手」ではなく「筆味」

-:お互いの仕事ぶりについては、それぞれどのように感じているのですか。

三浦圭司:アリサは筆味やリズミカルさが持ち味で、「上手」ではなく「筆味」として感じさせてくれます。
そして、僕の話からきちんとその本質、というか「ああ、確かに」って気づかせてくれるようなことを拾って、形にしてくれます。

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三浦アリサ:(圭司さんは)私の知らない焼き物の世界を見せてくれますし、いつも色々なことを調べてくれて、私が本当にやりたかったことに、うまく引き上げてもらっている気分です。

-:アリサさんは圭司さんのつくる素地についてどのように感じているのですか。

三浦アリサ:新しい形はいつもワクワクしますし、既存のものも、作るたびにキレイになっていきます。
あと、ロクロを引いた直後の並んでいる素地を見た時に「これに描きたいな」と思ったり、自分の中でイメージが膨らんでいったりすることも、日々あります。
「キレイ」って思える素地は、初めてのものでも、絵付しやすいです。

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-:例えば、このリムのある角の取れた四方皿なんて、どこからアイデアが出てくるのでしょうか。

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三浦圭司:アメリカに旅行した時に看板を見て「この看板の形、皿にできるぞ」って。

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二人だからこそ

-:多くのお客様の支持も得ています。

三浦圭司:感謝しかありません。
ただ、すぐに完売してしまうと、新たな提案が出来ておらず、お客さんの現在のニーズに合わせているだけの仕事なのかなと、不安にもなります。
受け入れられないものがあったり、興味は示されるけど選ばれないものが多かったりする時こそ、本当は作家として機能している時なのかな。
いや、2人だからそんなこと言っていられるのかも知れませんね。
1人だったらもう少し、お客様の反応に対して臆病になるかも・・・。

-:「いいね、それ。いいよ、いいよ、やろうよ」って、挑戦を面白がれるのは2人いるからかもしれませんね。

三浦圭司:ほんと、そうですね。

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ラスター彩

-:これからやっていきたいことはどんなことですか。

三浦圭司:アリサの魅力をより分かりやすく表現できる作品を目指したいですし、即興っぽいものも増やしていきたいです。
あと実は、ラスター彩をずっとやりたいなと思っています。
そもそもこういう絵付けになったのは、ラスター彩をやるために中東っぽい絵付けに取り組んだのがきっかけです。

三浦アリサ:見たいですね、自分たちのラスター彩を。
始めた頃の目標ですから。

三浦圭司:29歳の時にやりたいと思ったことを実現できていないんですよね。
勢いと流れで、ここまで来てしまいましたけど。

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展示会に向けて

-:展示会に向けて、お願いします。

三浦圭司:花田さんには、明るくて華やかな印象を持っています。
いつもの仕事に、華やかさを加えられればいいなと思っています。

三浦アリサ:私も、花田さんには「気持ちが上がる」雰囲気を感じています。
扱われている作家さんもそうですし、すごく明るい空間作りをされているなって。
来る人は多分楽しいと思うので、私たちの仕事も楽しんで見てもらえたらなと思います。

-:有難うございました。

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