安部太一さんインタビュー 2022


安部太一さんインタビュー

この2年

花田:2年ぶりの展示会です。
前回お話を伺ったときは「自分にしか出来ないことを追求していきたい」と。
興味深いところでは「DJをやりたい」といったお話もありました。(以下花田-)

安部:DJですが、地元では何回かできました。
東京のほうでも話は進んでいたのですが、社会状況も変わってきて、一旦中止になりました。

-:無理もないですね。

作曲の再開

安部:趣味の話が続いてしまうのですが、こういう状況で自宅の時間も増えましたし、元々やっていた音楽作りを再開しました。
今は、SpotifyやApple Musicみたいに自分で発表できる場がありますし、自分のPCで、ミックスダウン、マスタリングできる環境もあります。

-:何かをしようとした時に、その気さえあれば自分なりの規模、自分なりの始め方で取り組みやすくなりましたよね。
今の時代の好きなところです。

安部太一さんインタビュー

安部:僕が20代の頃は、高いスタジオを借りて、マスタリングエンジニアに頼んで…って、大がかりでしたが、今は自分の勉強次第で多くを解決できます。

-:曲はどの楽器で作るのですか。

安部:色々です。ギターだったり、キーボードだったり…。

-:どこかで曲は聞けますか。

安部:Spotifyなどで「Taichi Abe」で検索してもらえば出てくると思います。
僕のうつわを見ていただいている方にも楽しんでもらえたらなと思います。

-:皆様、喜ばれるでしょうね。聞かれて驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

安部:うつわ好きの人と僕の音楽性だと、リンクしない部分もありますからね。
でも、それも含めて僕であるということです。
陶芸やりながらああいう音楽をやっている人間がいてもいいんじゃないかなって。
何より、やっていて自分自身が楽しいので。

-:お客様の夢も広がると思います。

安部:それならなお嬉しいです。

安部太一さんインタビュー

教会とエレクトリック

-:安部さんの中では、完全につながっている話ですものね。

安部:他から見れば、音楽は趣味に見えると思いますが、僕としては本気で掘り下げていくつもりです。「表現」という意味では双方向にいい影響を与えていると思います。

-:内面の部分ですか。

安部:はい。例えば、物事を難しく考えなくなりました。
これまでは「僕のうつわに対して、特に『教会のイメージ』のようなものを感じている方が、僕のエレクトリックな音楽を聞いたら驚かせてしまうかもしれない」なんて考えていたんです。
「自分は他人にこう思われているから、違うことをやったら自分らしくないんじゃないか」と、自分で勝手に決めた自分らしさに、自分が縛られていたようなところがありました。

-:そうしていると、楽だし、落ち着く部分もあるのだと思います。

安部:でもね、実際はパイプオルガンもいいけど、YMOなんかも聞いているわけです(笑)。
自分で描いている自分自身を壊すという作業は、楽だった部分を足元から崩すことにもなるので、わりと勇気のいることですが、そのあとの解放感が自分にとって、とてもいい方向に感じられるようになりました。

安部太一さんインタビュー

-:実際、モノづくりをしていて実感されることはありますか。

安部:これまでと同じものを作っていても、ゆったりと自然なものになっていく気がしています。
もちろん皆様に使っていただくことや喜んでいただくことも嬉しいのですが、制作行為そのものともより楽しく付き合えています。
結果、仕事への向き合い方もより柔軟で、開放的になってきました。

安部太一さんインタビュー

必要なものは何か

-:こういう社会状況だからこそ、見直せた部分なのかもしれません。

安部:「リスタート」ですね。

-:時間の使い方も変わられたのではありませんか。

安部:外出が減って、家族との時間もめちゃくちゃ長くなりました。
人間関係の持ち方も、変わったというか…、お酒も飲まなくなりました。

-:色々なものをリセットする機会になりましたね。

安部:「これからの自分にとって本質的に必要なものが何か」を考えて、その上で時間を過ごすようになりました。

安部太一さんインタビュー

変わっていく感覚

-:陶芸の仕事について、安部さん自身「これから」をどのように描いているのですか。

安部:誤解を恐れずにいうと、僕は作る人間ではありますが「ものを作って買ってもらう」という感覚がなくなってきています。
実際の光景を見ればその言葉通りではあるものの「ものが作る人から使う人へ移動する」という感じではなくなっています。
僕が作って一方的に受けとめていただくのではなく、使ってくれる方々と一心同体というか「受け取ってくれることによって僕が成り立っている」というか…、分かりやすく言葉にできないのですが、そんな感じです。
「僕がこう表現したい」「見てくれ」という一方通行をやめたいんです。

-:店も同じようなテーマを抱えています。
モノとお金の交換の場で終わってしまったら、お店なんて必要ないんです。
「伝える」みたいな言葉に置き換えたとしても、実態は一緒です。
僕はその向こうにある豊かな時間を追っていきたいと思っています。
それはうつわを選んでいる時間も、使っている時間も含めて。

安部:お金とモノのやり取りだけでは無い相互関係ができてきたら、いいものが巡ってくるのではないかなという感覚はあります。

ご自愛ください

-:「相互」だったり「循環」だったり…、そういう要素は安部さんのうつわの世界を広げ、深めていきそうです。

安部:「工芸的」な世界をあまり知らない普通の人たち―普通に毎晩ご飯を作って、家族と一緒に食べているような―の日々の生活が輝くと嬉しいなと思います。
それと、誰かが良い評価をしているものや、人気作家の希少品といったステイタスではなく、自分自身が本当に喜べるものをまず探り当ててほしいです。
他人にしてみたら何の価値もないようなものでも「買って帰ったらすごくうれしかった」みたいなことってありますよね。
そんなに高尚なものでもないのですが「自分にとって本当に良かった」と思えるものを食卓で使うとすごく楽しいじゃないですか。
それで家庭の雰囲気がよくなったり、喧嘩が減ったり(笑)、そうことこそ、僕の仕事に意味を与えてくれるものです。
簡単に言えば「とにかく、楽しんで使ってもらいたいな」と。
自分が思うように、好きなように、自由に心地よく使ってほしい、そんな風に考えています。
よくメールの文末に「ご自愛ください」なんて書きますよね。
まさにそれです。それと同じように、自分の好きを大事にしてほしい。
それで、その人が元気になっているのを見るのは嬉しいです。

展示会に向けて

-:今度の藤崎均さんとの二人展がますます楽しみになってきました。
展示会に向けて制作の真っ最中ですよね。

安部:今、素焼きを終えたところです。
もちろん食器が中心ですが、人形も作っています。
今回は全体的に明るいトーンにしたいと思っていて、白が6-7割です。
ほんのわずかですが、最近取り組んでいるベージュも加えようと思っています。

安部太一さんインタビュー

-:楽しみです。

安部:優しい中間色を探っている中で、全体のトーンの中に入ってもうまく全体を中和してくれそうなこの色に行きつきました。

安部太一さんインタビュー

-:展示会、楽しみにしています。
よろしくお願いします。

安部:こちらこそ、よろしくお願いします。



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