知らなくても、出来なくても、ただただ楽しかった…
花田:小泉さんはどのようにして、焼き物を仕事にされるようになったのですか。(以下花田-)
小泉:明確に道があった上で進んできたわけではなくて、流れ流れて、たどり着いた感じです。
-:流れてきちゃったのですね(笑)。
焼き物とは、どのようにして出会ったのですか。
小泉:大学の窯工研究会です。ただ、これもたまたまで…。
入学直後にキャンパス内をウロウロしていたら、ある部屋から賑やかな笑い声が聞こえてきたんです。
なんか楽しそうだなと思って調べたら、それが陶芸サークルの部室だということが分かったんです。
後日訪ねて、入部することになりました。
-:陶芸を始めたころの作品で、何か覚えていらっしゃるものはありますか。
小泉:赤土と白土の練り込みの尺皿です。
2種類の粘土を合体させて、一緒に挽いて、渦巻き文様が出るという。
1年の夏ごろだったと思います。懐かしい…。
-:まず尺皿ってすごいですね。うまくいくものですか。
小泉:いいえ(笑)。全然できなくて、(ロクロを)挽いて失敗、挽いて失敗、挽いて失敗…その末に「ああ疲れた」みたいな(笑)。
-:4年間、窯工研究会で活動されるわけですね。
小泉:楽しかった…ただただ、単純に楽しかった。知らなくても、出来なくても、とにかく思いつくことは何でも試しますから、失敗も多かったです(笑)。
急須の口が小さすぎてお湯が出ないとか、めちゃくちゃ重い皿とか、釉薬の配合を失敗してとんでもなくボコボコのうつわとか…。
そうそう、薪窯もあったんです。
-:学校の敷地にあったのですか。
小泉:そうです。部室の裏にあったので、みんなで「裏窯」って呼んでいました。
これ、その裏窯で作ったものです。
唐津で過ごした1年
-:大学卒業後は?
小泉:古唐津に憧れがあったので、唐津の梶原靖元さんに1年間弟子入りしていました。
薪や土の用意をしたり、田んぼの手伝いしたり…色々経験させていただきました。
粘土について大事なことを学ばせていただいた1年でした。
-:具体的な制作上のベースとなる部分ですね。
小泉:梶原さんは砂岩を砕くことから粘土作りを始められるのですが、当時初めて聞いた方法でした。砂岩に含まれる粘土鉱物が古唐津のものに近いようで、古唐津にとても近い風合いのものができていました。
-:古唐津への憧れがあったわけですからね。
小泉:ただ、古唐津にあこがれて梶原さんの所へ行ったわけですけど、途中で「なぜ自分は唐津のことを好きなんだろうか」って疑問に感じ始めてしまったんです。
「自分はただ、まわりから影響をうけて『古唐津が好きだ』と思い込んでいただけではなかろうか」と。
よく「炎芸術」なんかの焼き物系の雑誌に格好よく写っているじゃないですか。
そういうのに感化されていただけな気がしてきて…。
-:一度行動に移されたからこそ感じることのような気もします。でも、面白いですね。
唐津に憧れて唐津に行ったのに「やっぱり唐津じゃないかも」と言って戻ってくる(笑)。
小泉:別に古唐津を嫌いにはなっていないのですが、ただ、古唐津だから好きなわけではなくて、古唐津のここが好きというのがわかった1年ではありました。
シンプルな造形や、初期唐津や中期のもののシンプルな絵付けはいまだに魅力を感じますし、なによりあのしみじみとした土味が好きです。
自分の好きなように
-:唐津から戻られてすぐに独立されます。
小泉:大学で4年間自由にやっていたこともあって、すぐにでも自分の好きなようにやりたかったんだと思います。
-:作風は今と変わりませんか。
小泉:いえ、最初は、全てここ藤野の土地でとれる赤土を使って作っていました。
釉薬も、ここでとれる石を砕いて釉薬にしていました。
この黒釉もそうです。
-:今とはずいぶん違いますね。
小泉:実はこれも、思い込みで(笑)。
よく陶芸の指南書なんかに「原土から作るのが一番いいんだ」とか「その土地でとれた原料で作るのが一番自然で、美しいんだ」とかって書いてあるじゃないですか。
-:ええまあ(笑)。
それはそれで理屈としては成立しそうな気もしますが。
小泉:でまあ、その本の言う通りにやっていたのですけど、途中で「本当に、これ自分が好きなことなのかな」って出てきて(笑)。
-:またですか(笑)。
小泉:今振り返ってみるとずっとそうやって生きてきた気がします。
それは焼き物を始める前からも。
-:ご自身の思いに素直に行動で答えてきたからこその道のりなのかもしれません。
そうは言いながらも、色々試みながら前に進んできたわけです。
小泉:で、白磁自体は学生の頃からずっとやっていたので、そのうち原土の仕事と白磁を並行するようになりました。
情感
-:白磁で、憧れはありますか。
小泉:李朝の中期です。
中国っぽさが抜けてきて、後期ほど焼きしまっていない感じが好きです。
-:柔らかい感じが好きなのでしょうか。
小泉:そうですね。
「情感がある」という風に自分では考えているんですけど。
心が動かされるというか。
バチバチに決めるのは性に合っていないし。
だからといって「素朴」一辺倒にもなり切れないというか…。
それと、白磁は自分の体には合っているなと感じます。
-:「白磁が体に合っている」とは、どういうことなのでしょうか。
小泉:割とカチッとした形が求められるのですが、それが自分の作る、成形する癖に合っています。
-:「勢い」や「テンポ」というよりは、丁寧に作り込んでいくような仕事、キレイに仕上げていく感覚でしょうか。
小泉:そうです。
-:だから象嵌なども苦にならないわけです。
小泉:そうですね。チクチクやるのが性に合っているのだと思います。
-:制作される中で、小泉さんが大事にされていることを教えてください。
小泉:ぶれないようにしたいなと。
今まで散々ぶれてきたので(笑)。
-:ぶれてはいないと思いますが…(笑)。「小泉さんらしくて、いいな」と思います。
ところで、ぶれないというのは作風のことですか。
小泉:いえ。それはこれからも変わっていくと思います。
保っていたいのは「こういうのが好きなんだよね」というノリです。
「こういうのが好きなんだよ」というものを作ってい続けたいです。
しみじみと
-:制作していて最近特に手ごたえを感じるものはありますか。
小泉:花器が多いですね。「お、いいのできたなあ」って一人で浸っています(笑)。
-:窯出しの時ですか。
小泉:いえ。花を入れた時などです。「いい花器とは?」なんて問いにはまだ答えを持ちませんが、花がきれいに映えていればいいなと思います。
そして、持っていて心が動くというか。しみじみと「持っていてよかったなあ」と感じてもらえるようなものを作ることができたらいいなと思います。
食器も同じです。
-:食器を作る際に気にされていることはありますか。
小泉:手跡を残し過ぎたくないので、轆轤目などは消したいです。
基本的にテクスチャーや造形を凝り過ぎないようにしたいとは思っています。
あってもなくてもいいけど、僕としてはあってほしい
-:小泉さんのお仕事は、土味なり、かたちなり、そういった各要素がまず目に飛び込んでくるのではなく、全体的にいい雰囲気を持っていて、家に持って帰ってきてから良さをジワジワ感じ始めて長く付き合っていけそうなものだなと感じます。
「焼き!」とか「ろくろ!」とかではなく、「なんかいいよね」というようなものを感じます。
小泉:そうそう。その「なんか、イイネ」という言葉にならない魅力を目指したいです。
-:小泉さんが何かを好きになる時も、そういうところあるのではないですか。
で、立ち返って「なんで、これ好きなんだっけ?」なんて自問されている(笑)。
人って、あらかじめはっきりとした理由をもって何かを好きになるというよりは、好きになってからですよね、他人への説明などのために理由がまとまってくるのは。
小泉:テクスチャーでもないし、造形でもない。
目には見えないんだけど、なんか伝わってくるものを持ったものが良いなと。
それはお客様にとっては実際あってもなくてもいいと思うのですが、僕の作品にはそういうものがあってほしいなって願っています。
-:「あっても、なくてもいいけど、僕としてはあってほしい」ですか…。
なんか、いいですね…。
これからのこと
-:今後取り組んでいきたいことはありますか。
小泉:象嵌をもっと極めたいし、白磁ももっと情感のあるものを。
茶碗もやってみたいと思っています。
-:展示会もよろしくお願いします。
小泉:はい。白磁、頑張って焼きます!