焼き物を営む者のリズム
花田: 渡邊さんは焼き物の産地でもある愛媛県砥部の出身です。ご両親も焼き物の仕事をされていました。(以下花田-)
渡邊心平:焼き物が身近にはあったものの、仕事を手伝った記憶はありません。
ただ、平日、休日関係なく日々が流れていて、毎月窯を焚く、という両親の「焼き物を営む者のリズム」は体にこびりついている気がします。
まあ、産地だし、友達も半分くらいは親が焼き物やっていたので、焼き物の仕事が特別とも思っていませんでした。
むしろ、土日に遊んでもらえないし、サラリーマンの家庭がうらやましかったです(笑)。(以下渡邊)
-:ご実家にいるときから焼き物の仕事を目指していたのですか。
渡邊:「焼き物を仕事にしよう」と考えたことはありませんでした。
まあ、他にやりたいことがあったわけでもなく、高校卒業時に将来のことを一人で考えたくて、石川県に2年くらい一人で暮らしていました。
元々美術や工芸は好きで、ちょうど金沢に21世紀美術館ができた頃でしたし、あの町の雰囲気も好きだったので、石川県を選びました。
そこで、県立美術館で古九谷に出会って、焼き物の仕事を考えるようになりました。
その頃は「何をしたいか決めたい」と思いながら暮らしていたので、きっかけがあればそういう気持ちになりやすかったのだと思います。
-:いい出会いがあったのですね。
古九谷、李朝、初期伊万里
渡邊:古九谷がきっかけではあったのですが、その後李朝の白磁を好きになっていって、そのうち初期伊万里にその李朝との共通点を感じるようになって、有田の窯業学校に通うことにしました。
初期伊万里、ほんと、大好きです。
-:渡邊さんにとって、初期伊万里の魅力とは何ですか?
渡邊:李朝白磁の陶工が作っていたこともあって、初期伊万里は李朝の素地やかたちの魅力もそなえています。
そこに、景徳鎮の最高レベルの染付技術が当時存在する上で、それが民窯で簡略化された絵付けがのっているという…。
なんというか、初期伊万里には自分の好きなものが全部詰まっているんです。
僕には初期伊万里の非装飾性に、李朝時代の思想が見えますし、簡素な文様に日本人が日本人なりに咀嚼した中国の空気のようなものも感じます。
それぞれから感じること
-:現在の渡邊さんは、色絵、染付、白磁を手掛けられ、古陶磁をそこまで大きくアレンジすることなく、制作を進められています。
渡邊:1640-60年あたりの初期伊万里や、そのころ出来始めていた色絵をテーマにしています。
有田の窯業大学校にきてから、九州陶磁文化館の柴田コレクションをよく見ていました。
石川県で見ていた五彩手や青手と違って、ちょっと色絵がのっているのが魅力です。
柿右衛門を作り出す準備時期の「ためしに初期伊万里様式に一筆くらい赤をのせてみようか」みたいな色絵に興味がそそられました。
例えば、柴田コレクションの色絵片身替唐花文軍配型皿は好きです。
中国的な雰囲気があるし、色絵なのに表現が柔らかい。
精巧な技術ではないうぶな雰囲気もいいし、文様のチョイスが僕にとっては新鮮です。
赤の使い方も参考になります。
-:様式が確立していく前の「ためしな感じ」が良いのですね。
渡邊さんの、楚々としていて品もそなえる作風に通じるものを感じます。
渡邊:柿右衛門のタイミングくらいが有田の技術の最高峰だと思いますが、そこに向けて坂道を上り始める最初の部分で、天啓あたりに影響を受けながら、試行錯誤していく時期のものに惹かれます。
「焼いた土」ってキレイだなって
-:渡邊さんがうつわを作る上で大切にされていることを教えてください。
渡邊:絵付師ではなく、焼き物屋でいたいという思いはあります。
もちろん僕は絵付けが好きなんですけど「土を焼く」ということは大事にしていたいです。
うつわも、絵付けよりかたちが大事、そしてかたちより土が大事。
そういう風に考えています。
絵付けは妻と一緒にやっていますが、文様表現が前に出過ぎないようにしています。
-:渡邊さんが初期伊万里に魅かれたのも素地の力があったからこそです。
渡邊:初期伊万里も形に魅力があるからこそ、シンプルな文様が活きるんだと思います。
食器だけでなく、花器にしても茶器にしても…、何を作っていても「焼いた土」ってキレイだなって。
そういう感覚はずっと大事にしていきたいと思っています。
-:自然への敬意や感謝もあるのでしょうか。
渡邊:「人がモノを作る上でのきっかけ」でしょうか。
土を焼き始めた人たちの思い。
根本的なモノを作るタッチのようなものです。
そういう意味では縄文土器も好きですし、石器も好き。
「生活する中で物を作っていく衝動」をより感じられるというか。
自分はその流れの末端にいて、至らずともその源というか、おおもとへの意識は失いたくないです。
筆、ロクロ…手の運び
-:これからやってきたいことは、ありますか。
渡邊:ロクロにしても、絵付けにしても、自分の表現欲求に足る技術の重要性を最近痛感しています。
素材も凝りたいですけど、まずは30-40代前半に確かな表現にたどりつくための技量を身に付けていきたいです。
体力や感性だけでなく、筆やロクロの運び方、手の運びいった技術です。
そのためには、数を作ることも大切でしょうし、古陶磁を見たり触ったりする機会をもっと増やしていこうと思っています。
-:時間の掛かることですね。
渡邊:日頃の仕事を流れ作業にせず、常に完成度をあげていこうという気持ちは持ち続けていたいです。
50才、60才になってから技術が大切だって気づいても遅い気がするので。
-:展示会、宜しくお願いします。
渡邊:新しい文様や形を作っています。
時期も年末年始に近いですし、ハレの日に使っていただけそうなもの用意しています。
皆様に見ていただけるのを楽しみにしています。