作り手を支え、自身も作り手に
花田:大平さんは元々家業でもある窯業の材料屋さんをされていて、そのうち築窯も手掛けるようになります。(以下花田-)
大平:材料屋は23歳の頃に継ぎました。
土や窯に入れる道具も販売していたので、それらをテストするための薪窯を自分で作ってはいました。
-:築窯も今では、全国の陶芸家の方々からオーダーが来るまでになったわけですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
大平:ある陶芸家の方へレンガを納めて帰ろうとしたら、「窯も作ってくれないか」と。
27歳の頃だったでしょうか。
-:そのうち、ご自身での焼き物の制作も軌道に乗り始めます。
大平:元々は材料屋としてのテストピースでした。
ただテストピースといっても、単なる欠片ではなく、かたちとして作っていたんです。
「この土を焼くとこんな風になりますよ」みたいな感じで。
形にしておいた方が説得力あるじゃないですか。
-:最初に作られたのは、何だったのですか。
大平:蹲(うずくまる)です。
そうしたらそれを「譲ってくれ」という道具屋さんがいらっしゃって。
で、有難いことに、そういう人たちが増えてきて、自分の制作で個展もするようになりました。
壺の魅力
-:道具屋さんと言えば、大平さんはご自身でも古物を扱い、人に紹介することもされています。
大平:道具屋ってほどでもないですが、25,6の頃からやっています。
-:そのきっかけは何ですか。
大平:中世の壺が好きだったんです。
中でも、常滑、信楽、猿投が大好きで・・・、渥美もいいですね。
-:大平さんにとって壺の魅力とは何でしょう。
大平:オーラ・・・でしょうか。
言葉で表すのは難しいですが、とにかくたまらない物体です(笑)。
-:大平さんは、その「たまらない物体」を自ら作るし、古いものにも関わられています。
大平:古物を人に紹介するといても、右から左へというわけではなく、自分の所を一回くぐって「行ってらっしゃい」という気持ちでいます。
-:骨董の壺への関与はどのようなものなのですか。
大平:まず自分の所へ来たらまず、水で洗います。
一回僕自身の気持ちをいれるというか、清めるという意味もあります。
そのあと、一番顔になるところを選んであげて、自分が良いなと思うところに飾ります。
場合によっては花を入れるか、水をためるか…。
そうすると、壺が息を吹き返すんです。
-:壺と飲みますか?
大平:しょっちゅうです。語り合いますよ。
壺って、夜には夜の顔があるし、朝には朝の顔がある。
昼の顔だってあるし、時間の顔があるんですよね。
そうやって壺と付き合いながら、そのうち良いところに行くというのが僕にとって最高の成り行きです。
-:古陶との付き合いも、ご自身の制作に影響を与えているのではありませんか。
大平:古瀬戸の瓶子や根来の瓶子なんかは今の僕の梅瓶の原型ですし、陶板は古備前の陶板がヒントになっています。
一直線のもの作り
-:大平さんがモノを作る上で大切にされていることを教えてください。
大平:バランスです。色、かたち等々…。
バランスの悪いものは…、(しばらく考えて)目が痛くなります。
目が痛くなると、物原(モノハラ:焼成後の焼き物などでキズモノなどを投棄した場所)に行きます。
そうやって古窯跡にいると、目がリセットされる気がします。
-:モノを作る際「こういうものを作ろう」という目標は事前にお持ちですか。
大平:はい。成り行きの部分が無いとは言えませんが、たいていは出来上がっています。
-:そのイメージはどこから出てくるのでしょうか。
大平:今まで作ったものとの比較の上で「もうちょっと肩を張らせよう」とか「口づくりを凛としよう」とか…、そういうことを考えています。
-:作りながらそういったことが変化していって当初と違うものが出来上がることはあるのでしょうか。
大平:いえ、一直線です。
途中で修正を加えるなら、僕は途中でやめてしまうと思います。
基礎が違いますし、それなら最初からやり直したほうがキレイかなと思います。
手ごたえというよりは「感謝」
-:窯焚きが終わって、窯出しの時の喜び…。
大平:いつも感動しています。
-:その感動の源は何なのでしょう。
大平:神業でしょうね。
助けていただいているという気持ちです。
-:手ごたえというよりは「感謝」ですね。
大平:自分の実力以上のものが焼けているということには、感謝しかありません。
ただ、自分の中で妥協していたらそうやって助けてもらえることはないでしょう。
僕に対する相対的な評価は分かりませんが、今の自分に出せるものはすべて出しています。
「きれい」が始まるところ
-:最近は、ご自身でも納得のいく仕事ができているそうですね。
大平:随分よくなってきたとは思いますが、自分でも「粗い仕事しているなあ」って見えることが今でもあるので、手を抜かずにやっていきたいと思います。
-:大平さんは「粗い仕事」「きれいな仕事」という言葉をよく使われますね。
大平:きれいな仕事をしていれば、いいように運ぶのではないでしょうか。
-:きれいな仕事とは?
大平:モノを作る場所のまわり全部含めてきれいである、ということです。
例えば「きれいだな」と思える窯詰め等々…。
-:大平さんのおっしゃる「きれい」とは?
大平:極端に言うと「ごみが落ちていない」ということです。
そこから始まります。
窯を閉じている煉瓦がピシッと収まっているとか、ガバガバしていないとか。
汚いところから出たものをお客さんが喜んでくださるわけがないと思うんです。
個展に向けて
-:これからやってみたいこと、あれば教えてください。
大平:ドキッとするようなものを作っていたいと思います。
いや、作るだけではないですね。
関わっていたいです。これからも、いいものに出会いたいし。
-:個展、楽しみにしています。
大平:今までで一番気持ちの入ったものを持って行きます。
今の僕の100%ですので、楽しんでいただきたいです。
-:ありがとうございました。