お屠蘇
邪気を払い、無病長寿を祈る
今年一年の幸せを願い、いただくお正月ならではのお酒、お屠蘇。
最近では、お正月にいただくお酒(清酒)をお屠蘇と呼ぶように思われることも多いようですが、「お屠蘇」とは、10種類近くの生薬を酒やみりんで浸け込んだ一種の薬草酒で、正式には屠蘇延命散と言います。「屠蘇」という言葉にも由来があり「屠」は「邪気を払う」、「蘇」は「魂を目覚め蘇らせる」という意味にとるなど、いくつかの解釈や言い伝えがあるようですが、いずれにせよ年明けに、今年一年の幸せを願うセレモニーとしての意味であることを知っておきたいですね。
お屠蘇の歴史は古く、平安時代に中国(唐)から日本に伝わったと言われ、嵯峨天皇の頃に宮中の正月行事として始められ、江戸時代には一般に広まったそうです。
中身と効能
屠蘇散には7~10種類ほどの薬草が調合されています。
紅花(べにばな)・・・血行促進
浜防風(はまぼうふう)・・・消化促進
蒼朮(そうじゅつ)・・・健胃作用、利尿作用
陳皮(ちんぴ)・・・健胃作用
桔梗(ききょう)・・・のどの痛みを和らげる
丁子(ちょうじ)・・・食欲増進、鎮痛効果
山椒(さんしょう)・・・健胃作用、抗菌作用
茴香(ういきょう)・・・健胃作用
甘草(かんぞう)・・・解熱鎮痛消炎
桂皮(けいひ)・・・健胃作用、解熱、鎮静
全体に胃腸の働きを盛んにし、血行を促進、風邪防止に効果的な生薬が含まれているようです。お屠蘇の効能は、健胃、強壮、咳、風邪、血液浄化、発汗促進などです。酒やみりんにはブドウ糖、必須アミノ酸、ビタミン類も含まれており、さらに適度の天然アルコールは血行を促進させます。
いただき方
元旦の朝、若水(元旦の早朝に汲んだ水)で身を浄め、初日や神棚、仏壇などを拝んだ後、家族全員が揃って新年の挨拶をし、お雑煮の前にお屠蘇をいただくのが正式。
「一人これを飲めば一家くるしみなく、一家これを飲めば一里病なし」と唱えます。
いただく順序は一年の無病息災と延命長寿を願うところから、若者の活気ある生気にあやかる意味で、年下から順次年長者へと盃をすすめます。
また、元旦だけでなく正月三が日の間はお客様に対しても、初献にお屠蘇をおすすめし、新年のお祝いのご挨拶を交わしましょう。
現代の暮らしに合わせて…
以前は、お正月といえばお店も休みで、どこも家庭で過ごすのが普通でしたが、現代は元旦営業で福袋を買いに出かけたり、旅行先で年明けを迎えたり、お正月の在り方も少しずつ変化してきました。過ごし方はそれぞれでも、家族の健康や幸せを願う気持ちは変わりません。本来は朱塗りまたは白銀や錫などのお銚子と朱塗りの三段重ねの盃を使いますが、専用のうつわでなくても、お気に入りの片口や盃があれば十分。
自分らしい組み合わせを愉しんでみてはいかがですか。伝統的なセレモニーを現代の暮らしに合わせながら、伝え続けていきたい行事です。