滾
る思い
― イムサエム新作展を控えて ―
恒例の新作展を1ヶ月後に控えて11月初め愛知県豊田市の工房に
イムサエムさんをお訪ねしました。
いつものようににこやかなご夫妻のお出迎えです。
工房内に招じ入れられ、2階にある見本場に案内されるとそこには1年を
掛けて作り上げた初々しい新作が整然かつ所狭しと並べられています。
箸置きに始まり 可愛いお馴染みの四方小付 珍味、薬味の小皿類
食卓の働き者 丸や角の中皿、 食卓の花形 ミート皿 長角皿 楕円皿
お洒落な汲み出し マグカップ 焼酎カップ ポット等など
イムさんならではの個性豊かなうつわで埋め尽くされています。
その数250点を超えます。
それらを一つ一つ目を凝らして見てみると
色合い 文様 筆遣い 彫りの具合を始め醸し出す雰囲気に到るまで
今までにないひと工夫がそれぞれに施されています。
特に今年は花唐草のより緻密な描き込みが目を惹きます。
またその密集部分と広めにとられた余白との明快なコントラストも
出色です。
正に『イムサエムの新世界』全開 といったところです。
思えば今年は稀にみる厳寒と猛暑に見舞われた年でした。
この極端な寒さと暑さには誰しもが閉口し気力も体力も萎えて
しまったものです。
そんな中イムサエムさんのうつわ作りは黙々と止むことなく
続けられました。
進取の気質に満ちた作風を取り入れながら この膨大な量を生み出す
力強いエネルギーの根源となっているものそれは一体何なのでしょうか。
遠く 祖国カンボジアを離れて 40有余年、
言葉も習慣も全く違う異国でゼロから始めた陶芸の道です。
そこには様々な厳しい試練が待ち受けていたことは想像に難くありません。
この間 後にした母国では在り得ないような過酷な社会状況もありました。
次から次へと押し寄せてくる荒波に揉まれながらも 生活のリズムを決して
崩すことなく常にうつわ作りを中心に見据えて淡々と研鑽を重ねて
きたのです。
そこにあるもの、それは 普段の冷静で穏やかな表情からはとても窺い知る
ことができない心奥に脈々と流れた陶芸への情熱『滾る思い』なのです。
『滾る 思い』に支えられてきたイムサエムさんの陶芸生活でしたが
円熟味を増して 今や他者の追随を許さない領域に入っています。
目の前にしている新作の森を一堂に会した個展を思う時胸が高なるのを
覚えるのです。