秋深まる、岩手県浄法寺で行われた漆の品評会「共進会」
2017年採取の浄法寺産の生漆を見るとともに
漆掻きの時期が終わろうとする、漆の木を見てきました。
桜の木は早くもこのような紅葉の進み具合。
九段の桜はまだまだでしたので、葉の赤が鮮烈に感じました。
カラリと晴れ渡る空。
秋晴れの中、浄法寺漆共進会会場には大勢の方々が訪れていました。
岩舘さんの工房前の漆の木。
栗の木の葉のように、葉はやや長めの形状が特徴です。
「ほら、色づいてきてるでしょ。場所によって紅葉の進み具合が違うけどね」
と説明してくださいました。
これは漆の実です。
葡萄の房のような成りかたですね。
一粒もいで、殻から実を取り出す岩舘さん。
江戸時代から昭和30年ころまで、蝋燭や鬢付け油の原料として用いられていたのだそうです。
最近は、焙煎してコーヒーにすることもあるのだとか。
時代によって活用法も少しずつ変化していくのですね。
紅葉が終わり、葉が落ちはじめていた場所ももちらほら。
「こうして落ちた葉が腐葉土になって、また山にかえるんだよ」と岩舘さん。
「どこ写真撮ってるの?それ葡萄の蔦でしょうが!」
すみません、つい赤に引き寄せられてしまいました。
そうそう、漆の葉はこの形ではありません。
うつわの文様で、普段から見慣れている葡萄の葉でした!
「漆林を見ていこうか」と誘ってくださいました。
昨年見たのはこれから漆を採り始める初夏の頃。
その時とはまったく違う風景の中に、漆の木が立っていました。
あちこちに毬栗が落ちていて、歩くだけで森の遠足気分。
カサカサと枯葉を踏む音は、まさしく秋の足音です。
ふと気になって
「岩舘さん、此処熊いませんよね」
「うん、大丈夫。熊はもういなくなった」
聞いてよかったんだろうか・・・
安心して良いのか悪いのか・・・
漆林は山の中腹。道のすぐ下には川が流れていました。
「ここね、岩魚が捕れるんだよ」
「竿も何もいらないの、此処に集まってくるからね。網で簡単にすくえちゃう」
というお宝の小川でした。さすが絶好のポイントをご存知です。
しばし目を凝らして見ていましたが・・・
そんな簡単に見つかる筈もありませんでした。
「今年の漆は殆ど採り終わったところだね」
と、歩き慣れた林の中をズンズン行く岩舘さん。
6月の中旬から始まった漆掻きは10月に入り、そろそろ終わりの時期。
幹の上から下まで「辺」の跡が黒く残る漆の木が何本もありました。
漆を掻くまでに、8~13年の年月をかけて育てた漆の木は
「殺し掻き」という手法で1年で漆を採り尽くし、木は伐採されますが
切り株から出た芽を育て、これからまた約10年をかけて同じ営みを繰り返していきます。
岩舘さん「ほら、ここに漆が出てる」
まるで最後の漆がにじみ出たように、漆の細く白い筋が流れていました。
「ほら、漆だよ」
と難なく指で漆に触れる岩舘さん。
真似したらどうなるんだろう・・・想像するだけで精一杯でした。
あの一滴一滴が、こうして二貫目の樽にまでに達するまでの労力は計り知れません。
大切に育てた漆の木から、一滴も無駄にせず採取しているのですね。
この漆が国の重要文化財の修復に、
そして浄法寺塗の漆器として私達の食卓へ届くのです。
伐採された漆の木
その多くは燃料として使われます。
この後、浅野奈生さんに漆の苗木を育てているところへ案内していただきました。
苗木はまだ50~70cmほどの高さです。
「もう少し紅葉が進んだら葉を全部落として、この上に藁をかけて雪から守り
越冬させるんです。そうして成長したものから順に山に植え替えるんですよ」
と教えてくださいました。
先ほど山で見た光景とは違い、まだ柔らかく、いかにも幼ない葉が茂っていました。
浅野さんは塗り師ですが、こういった漆の木を守り育てる活動に参加されたこともあるそうです。
大切に育てられている苗木、何とか元気に冬を越してほしいですね。
季節はちょうど稲刈りの時期。
秋の日差しに照らされて、一面眩しいほどの稲穂が広がっていました。
車を止めて、浅野さんと暫し見入った静かな時間・・・
こんな光景もあちらこちらに。
田んぼも漆の木と同様、今年の仕事を終えて
また次の季節に備えます。