「作りたいもの」があって初めて・・・
花田: 井銅さんがモノ作りに関わるようになったきっかけは何だったのですか。(以下 花田-)
井銅: 小学生の頃から、粘土遊びなんかが好きでした。
聖闘士星矢の人形を作ったり、「こんな聖衣があったらいいな」って考えたり・・・。
中学は部活で野球一色。
高校は将棋部。
兄が将棋強くて、小さい頃から相手をさせられていて結構自信があったのですが、高校くらいになるとレベルが違いますね(笑)。
強さとしては中の上くらいでした。
-: 色々なことに熱中しているのですね。
井銅: 対決モノが好きで、ひとつひとつ戦法を考えるのが好きなんです。
-: 高校卒業後はどうされていたのですか?
井銅: 「料理の鉄人」を見て、小学校の時はコックになりたかったんです。
そうしたら家族全員から「テレビに影響をうけているだけだろう」って猛反対されました。
結局、地元の大学で建築を勉強していました。
それはそれで、とても楽しかったのですが、自分が作りたいと思うスケール感とは合わなくて・・・。
建築は大きくて、複雑すぎる。
-: ただ、モノを作り上げることには惹かれていたわけですね。
井銅: 建築の勉強をしたことは、今でも活きています。
何を作るにしても、何を作るのかがあやふやなままでは作れない。
「作りたいもの」があって、初めてそれに向かっていくことができる。
だから「自分が何を作りたいのか」を問い続けることは、自分の仕事にとって、とても大切なことなのです。
「自分の仕事」との出会い
-: うつわの世界には大学卒業後すぐに入られたのですか。
井銅: 大学生のときに居酒屋で調理のアルバイトをしていました。
調理長が変わると、盛り付けも変わるのですが、それで印象が大きく変わるのを見て「同じ料理でもこんなに変わるものか」と、うつわに興味を持つようになりました。
-: 料理が好きだったのですね。
井銅: ほとんど自分のためですけど、小学生のころからチャーハン、ラーメン、カレーなどの簡単なものは作っていました。
友達が遊びに来るっていうとチーズケーキを作ったり・・・。
それで褒められたり、喜ばれたりすると、ますます調子が出てくる(笑)。
-: そういうバックグラウンドもあったのですね。
井銅: うつわの魅力に出会ってからは早かったです。
急にピンときました。
探していた「自分の仕事」に出会えた。
-: 出会いとは、そういうものなのですね。 ある日、突然やってくる。
井銅: それで、人に相談したり、自分で調べたりしていたら、隆太窯を知りました。
料理とうつわとの関係についても一番グッと来るものがありました。
ひたすら練習
-: 隆太窯には何年いましたか?
井銅: 3年間です。 太亀先生に色々と教えていただきました。
-: やはり、まず小皿をひくのですか?
井銅: はい、小皿から始まって、徳利で終わるのは隆先生と変わりません。
昼は窯の仕事。
夜、教えてもらってひたすら練習していました。
しばらくは土練などの下仕事で、その後やらせてもらった小皿はクリアするのに8ヶ月くらい掛かりました。
-: 焼き物の学校に通っていたわけでもありません。
井銅: そうですよ(笑)。
だから、最初は途方に暮れました。
太亀先生が作るものと全く違うんです。
ビデオカメラを借りて、自分を撮影したら、成型されていく土の動きが全然違うのが分かって、とても勉強になったのを覚えています。
「普通」や「普段」が凄い
-: 印象深かった太亀先生の言葉は何かありますか。
井銅: 「人の手はそれぞれ違うから、自分の感覚は自分でしかつかめない。
それを教えることはできない」と言われて頑張ったのを覚えています。
あと、小皿から始まって「徳利が基本の集大成である」と先生もずっと仰っていて、そのことの意味が分かった瞬間があったのですが、やっと自分もロクロが少し分かるようになったな、って嬉しかったことがあります。
井銅: とにかく、一つできるようになると次の課題に取り組むので、状態としてはいつもできていない感じです。
以前に出来ていたことも出来なくなってしまうような気がして不安でした。
-: いつも何かぶち当たっている状態ですね。
井銅: 隆太窯は「普通」や「普段」が凄いんです。
求められているものの標準値が高くて、それが当たり前。
仕事に対するストイックさであり、うつわ作りを仕事にしているという強い自負ですかね。
気の抜けた仕事は嫌っていたし、そういう雰囲気が仕事場全体に張っていました。
ただ、それに気が付いたのは自分が独立してからです。
自分でやってみて分かりましたし、あそこは姿勢がとても真面目だったと思います。
-: 一番嬉しかったのは?
井銅: 隆太窯の卒業が決まった時に、太亀先生が水桶を作ってくれて、卒業証書の換わりにそれを下さった時は嬉しかったです。
-: 涙の卒業式ですね。
井銅: いや・・・僕、そういう時泣けないんですよ(笑)。
乾山に憧れて
-: 井銅さんが目指す焼き物とはどのようなものですか。
井銅: 乾山に憧れています。 乾山のようなものをしたいわけではなく、ああいう雰囲気を持っているものを作ってみたいと思っています。
-: 雰囲気。
井銅: 色気もあるし、料理の邪魔をしませんよね。
ああいう色彩感覚、構図感覚・・・凄いです。
料理する人間が「料理を盛りたい!」って引きずり込まれるようなパワーを持ったものです。
-: 乾山でも特に好きなものはありますか。
井銅: 型うちしたような向付は好きです。 楓とか、流水文とか・・・。
当たり前を当たり前に
-: 井銅さんがうつわ作りで大事にしていることは他にありますか。
井銅: 当たり前ですけど「使いやすい」ということです。
-: 井銅さんにとって「使いやすい」とは?
井銅: 例えば、うつわを持った時に「重いな」とか「口が欠けそうで心配だな」とか「野暮ったいな」とかってマイナスのことを思われないうつわです。
-: 基本の部分ですが、重要ですね。
井銅: あと、最近友達の料理人に「料理を盛り付けるときに余計なことをしなくていいのが、いいうつわだと思う」と言われてハッとしました。
装飾を必要とせず、料理をポンと盛ったら、キレイに映るようなうつわを心がけたいですね。
普通の人でも少し工夫すれば、料理自体は一緒でも、違って見える。
そんなうつわが理想です。
初源伊万里
-: これから取り組んでいきたい仕事は何かありますか。
井銅: 釉薬の幅をもう少し広げていこうと思っています。
この間、初源伊万里と思われる、青磁に近い感じのものに惹かれて「やってみたいな」と思うようになりました。
色の具合が良かったですし、明るい色だけど「これなら料理盛れるよね」って思えるものでした。
-: 企画展に向けて一言お願いします。
井銅: 皆さんが普段作っている料理を思い浮かべながらうつわ選びを楽しんで欲しいと思いますので、宜しくお願いします。